辞世の歌 その17「出でて去なば主なき宿となりぬとも軒端の梅よ春を忘るな」(源実朝)

源実朝は鎌倉幕府三代将軍。父は源頼朝、兄で二代将軍の頼家が幽閉されたあとを受け三代将軍となりました。北条氏に阻まれて政治の実権はもてませんでしたが、京都の文化とりわけ和歌に興味をもち、家集「金槐和歌集」を編んだほど。享年...

辞世の歌 その16「行き暮れて木の下かげを宿とせば花や今宵のあるじならまし」(平忠度)

前回は源頼政の辞世の歌をご紹介しましたが平家方にも歌が得意な武人がいました、平忠度(ただのり)です。忠度は平清盛の異母弟で、なんと時の大歌人藤原俊成に師事したというのですから、歌に対する熱意のほどが知れます。 しかしそん...

辞世の歌 その15「埋れ木の花咲くこともなかりしに身のなる果てぞ哀れなりける」(源頼政)

和歌ファンであればその名を知らぬ人は少ないでしょう、源頼政です。彼は勅撰集に59首も採られた名うての歌人であり、もし百人一首に採られていたら抜群の人気を獲得したであろう、文武を備えた魅力的な人物でした。 頼政は保元として...

辞世の歌 その14「世にふればやがて消えゆく淡雪の身に知られたる春の空かな」(一遍上人)

一遍上人は鎌倉初期の僧侶ですが、いわゆる「鎌倉新仏教」六宗の宗祖、たとえば日蓮や親鸞らと比べるとあまり知られていないかもしれません。それは一遍が死を前に自身の遺作をすべて焼き捨てたこと、また彼を宗祖とする時宗が比較的小さ...

辞世の歌 その13「願はくば花の下にて春死なむその如月の望月のころ」(西行法師)

あまたの辞世の歌のなかでも、もっとも知られるのがこの一首だろう。もしも願いが叶うなら春の桜の下で死にたい、二月の満月のころに。二月(旧暦)の十五日は釈迦入滅の日であり、花と月は西行が生涯追い求めた数寄の象徴でもある。すな...

辞世の歌 その11「誰か世にながらへて見る書きとめし跡は消えせぬ形見なれども」(紫式部)

この歌、紫式部の辞世歌として喧伝されていますが本当でしょうか? 採られた新古今の詞書を見ると「上東門院小少将(藤原彰子の女房)が亡くなって後、彼女と交わした文を見て詠んだ」とあり、歌の「書とめし跡」は紫式部のそれ限らない...

辞世の歌 その10「生くべくも思ほえぬかな別れにし人の心ぞ命なりける」(和泉式部)

和泉式部といえば恋多き、奔放な女性として知られています。時の権力者藤原道長からは「浮かれ女」と評され、同僚である紫式部には「和泉はけしからぬ方こそあれ」などと記される始末。それはやはり橘道貞の妻だったにもかかわらず、冷泉...

辞世の歌 その9「夜もすがら契りしことを忘れずは恋ひむ涙の色ぞゆかしき」(藤原定子)

藤原定子の人生は浮き沈みの激しいものでした。中関白家道隆の娘として生まれ、14歳の春に一条天皇に入内しました。しかし、定子の兄である伊周が花山法皇を脅迫して射撃する事件を起こしたため、思い悩んだ末に出家。しかし、定子への...

あらたしき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事(大伴家持) 

「あらたしき」「年の初め」「初春」と、これでもかと元日が打ち出さているが、古来、正月に降る雪は豊作の吉兆であったという。これが四句におよぶ序詞となり、そのように「佳いことが積もりますように」と結ぶ、まことにおめでたい歌で...

辞世の歌 その8「手に結ぶ水に宿れる月影のあるかなきかの世にこそありけれ」(紀貫之)

「手に結ぶ水に宿れる月影のあるかなきかの世にこそありけれ」(紀貫之) 『先づ「古今集」といふ書を取りて第一枚を開くと直ちに「去年とやいはん今年とやいはん」といふ歌が出て来る、実に呆れ返つた無趣味の歌に有之候。(再び歌よみ...

辞世の歌 その7「九重の花の都に住みはせてはかなやわれは三重にかくるる」(小野小町)

「九重の花の都に住みはせてはかなやわれは三重にかくるる」(小野小町) 小野小町は先の在原業平と同じく六歌仙に数えられ、古今東西に広く知られる歌人のひとりです。しかしその出自は謎めいていて、それゆえに日本の各地にいわゆる「...

辞世の歌 その6「つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを」(在原業平)

「つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを」(在原業平) いわずと知れた在原業平、古典ファンのみなさまにあえて人物を語ることはしませんが、その歌風について貫之に伺うと『その心あまりてことばたらず。しぼめる...

辞世の歌 その5「士やも空しくあるべき万代に語りつぐべき名は立てずして」(山上憶良)

「士(をのこ)やも空しくあるべき万代に語りつぐべき名は立てずして」(山上憶良) 山上憶良は日本の古代歌人においてほとんど唯一無二の存在です。かつて中唐の詩人白居易は詩を分けて「諷諭、閑適、感傷、雑律」の四つに分類し、士大...