辞世の歌 その21「捨ててだにこの世のほかはなきものをいづくか終の棲家なりけむ」(斎藤道三)

「捨ててだにこの世のほかはなきものをいづくか終の棲家なりけむ」(斎藤道三)

斎藤道三は戦国時代の中期の武将、俗名は利政ですが仏門に入り道三と名乗りました。油売りから身を興し、一代で美濃国主になったといいます。嫡子である義竜に家督を譲るも後に対立、武力衝突となり敗死しました。ちなみに織田信長は女婿にあたります。

「美濃のマムシ」と呼ばれ狡猾で武骨なイメージの道三ですが、それに反して辞世の歌は弱々しいものです。
初句の「捨ててだに」の意を汲み取ると、家督を嫡子に譲り仏門へ入った私はすべてを捨てたというのに… といった感じでしょうか。それでもこの世はむなしく、どこに安息の地すなわち「救い」があるのだろうか。歌には彼の心の「迷い」が強く示されており、疑心暗鬼のまま死を迎えたことがわかります。実のところ戦国武将の辞世歌において、このような気弱な歌は珍しいです。

道三とすれば実の息子も仏さまさえ、信じるに足る存在ではなかったのでしょう。だからこそ死ぬ間際まで、自分にとっての“本当の安息の地(終の棲家)”を求め続けた。しかしそんな場所なんて、はたして本当にあるのか? 私は、この世を始終狡猾に渡り歩いた斎藤道三という人間の「猜疑心」が、このような苦悩を抱かせたのだと思います。

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(書き手:歌僧 内田圓学)

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