和歌における恋のテーマ・歌題その1「初恋(はじめたるこひ)」

「初恋」は「はつこひ」ではなく「はじめたるこひ」と読みます。すなわち『人生初めての恋』にかぎらず、ある人物との『恋の最初の段階』で詠まれるのが「初恋」の歌ということになります。たとえば、心に芽生えた淡い思いを詠んだ歌、そ...

一首探究「袖ひぢてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ」(紀貫之)~貫之の名誉を回復する~

和歌の復興を成し遂げるうえで、どうしてもやらなければならない仕事がある。それは「紀貫之の名誉回復」だ。さかのぼれば定家にもみえる貫之批判だが、 むかし貫之、歌の心たくみに、言葉強く姿おもしろきさまを好みて、余情妖艶の体を...

一首探究「月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして」(在原業平)

歌の背景と恋の物語 「月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして」(在原業平) 業平を語る上でけっして欠かすことができない一首。古今集恋五の巻頭を飾り、伊勢物語の第四段にも載るこの歌には、長い詞書が添えられて...

辞世の句・歌 その26「極楽も地獄も先はありあけの月ぞこころに懸かる雲なし」(上杉謙信)

上杉謙信ほど謎めいた武将はいないでしょう。謙信は越後守護代であった父、長尾為景の末子として誕生、病弱であった兄に譲られるかたちで家督を継ぎました。「越後の虎」と呼ばれた謙信の人生は、まさに戦の人生でした。武田信玄とののべ...

辞世の句・歌 その25「吹きと吹く風な恨みそ花の春もみぢの残る秋あればこそ」(北条氏政)

北条氏政は小田原の北条氏四代目、武田信玄や上杉謙信と同盟を結び北関東に勢力を拡大するも、豊臣秀吉に小田原城を攻囲され降伏、弟の氏照とともに自害し果てました。これにより北条氏は滅亡し、その領国はことごとく改易されてしまった...

辞世の句・歌 その24「夏の夜の夢路はかなき跡の名を雲居にあげよ山ほととぎす」(柴田勝家)、「さらぬだにうち寝るほども夏の夜の別れをさそふほととぎすかな」(お市の方)

柴田勝家は安土桃山時代の武将。はじめ織田信長の弟である信行に仕え、後に信長の家臣として宿老の一人となりました。彼は猛将として誉れ高く、近江長光寺城を六角承禎に水攻められた際には、水瓶を割り決死の覚悟で出撃し敵を破ったこと...

もみぢは「紅葉」? それとも「黄葉」?

「もみぢ」を現代ではほとんど「紅葉」と記します。しかし古代の詩集である『万葉集』においては、「黄葉」という表記が圧倒的に多く使われ、赤い紅葉を指す表現はほとんど見られません。 「秋山の黄葉を茂み惑ひぬる妹を求めむ山道知ら...

辞世の句・歌 その23「浮き世をば今こそ渡れもののふの名を高松の苔に残して」(清水宗治)

清水宗治は戦国時代後期の武将で備中高松城の城主。豊臣秀吉の中国征伐に対抗し、水攻めに苦しめられる。やがて本能寺の変が起こり、急いで事態を収拾したいと考えた秀吉は宗治の自害を条件に講和を進め、これを受け入れた宗治は自刃して...

辞世の句・歌 その22「かねて身のかかるべしとも思はずば今の命の惜しくもあるらむ」(朝倉義景)

朝倉義景は越前の戦国大名。義景の名は将軍足利義輝の諱を一字もらい受けたもので、彼の将軍家への忠義のほどがうかがえます。浅井長政と結んで織田信長に対抗するも姉川の戦いで大敗、一乗谷を攻め落とされ自刃しました。 ところで越前...

辞世の句・歌 その21「捨ててだにこの世のほかはなきものをいづくか終の棲家なりけむ」(斎藤道三)

「捨ててだにこの世のほかはなきものをいづくか終の棲家なりけむ」(斎藤道三) 斎藤道三は戦国時代の中期の武将、俗名は利政ですが仏門に入り道三と名乗りました。油売りから身を興し、一代で美濃国主になったといいます。嫡子である義...

辞世の句・歌 その20「筑摩江や芦間に灯すかがり火とともに消えゆく我が身なりけり」(石田三成)

石田三成は戦国時代末期の武将、豊臣秀吉に仕えて五奉行の一角をなし、九州征伐や文禄・慶長の役などに出陣したほか太閤検地など行政面で実績をあげました。秀吉の死後は徳川家康と対立、関ヶ原の戦で敗れ最後は京都の六条河原で斬首され...

辞世の句・歌 その19「打つものも打たるるものも土器よ砕けて後はもとの土くれ」(三浦義同)

無常の様相 その1「受け入れる」「打つものも打たるるものも土器よ砕けて後はもとの土くれ」(三浦義同) 三浦義同(道寸)は戦国時代はじめごろの武将で、相模国東部を修めた三浦一族の当主でした。しかし北条早雲らの侵攻をうけ、あ...

中世以降の辞世の句・歌(序)~末法思想と無常感~

鎌倉時代以降になると辞世歌にはある主題が強く詠まれるようになってきます、それは「無常感」です。この「無常」とは本来仏教の三法印のひとつ「諸行無常」に由来し、その意味は端的に「因縁生起」であり、釈迦ならずとも把握される世の...

辞世の句・歌 その18「今日ありと思うて日々に油断すな明日をも知れぬ露の命を」(慈円)

出展がはっきりしないので講評が憚られるのですが、今回はユニークな辞世の歌をご紹介しましょう。前大僧正慈円の辞世歌です。 「今日ありと思うて日々に油断すな明日をも知れぬ露の命を」(慈円) これをパッと見ての感想ですが、どう...