【百人一首の物語】九十八番「風そよぐならの小川の夕暮はみそぎぞ夏のしるしなりける」(従二位家隆)

九十八番「風そよぐならの小川の夕暮はみそぎぞ夏のしるしなりける」(従二位家隆) 風で秋を知る、というのは和歌の定石で百人一首では七十一番がこの一手で詠まれています。九十八番はそれを踏まえつつも本意は往く夏を惜しむ心であっ...

【百人一首の物語】九十七番「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ」(権中納言定家)

九十七番「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ」(権中納言定家) ついに御大の登場、藤原定家です。「新古今集」と「新勅撰集」のふたつの勅撰集の撰者であり、歌人にして正二位で権中納言の高みに昇った大人物、...

【百人一首の物語】九十六番「花さそふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものはわが身なりけり」(入道前太政大臣)

九十六番「花さそふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものはわが身なりけり」(入道前太政大臣) 「新勅撰和歌集」所収の歌、採られた部は「春」ではなく「雑」なので、主題は古りゆくわが身にあります。 「落花を誘う風が強く吹く庭は、花が雪...

【百人一首の物語】九十五番「おほけなく浮世の民におほふかなわがたつ杣にすみぞめの袖」(前大僧正慈円)

九十五番「おほけなく浮世の民におほふかなわがたつ杣にすみぞめの袖」(前大僧正慈円) 最後にして最高位の坊主、それが慈円です。貴族には官位・位階という整然としたランク分けがありましたが、これは坊さんにもあってそのナンバーワ...

【百人一首の物語】九十四番「み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり」(参議雅経)

九十四番「み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり」(参議雅経) 参議雅経は「飛鳥井雅経」です。雅経は多才な人で、和歌では後鳥羽院の和歌所の寄人となって「新古今和歌集」の撰者に加わり、蹴鞠では院に「蹴鞠長者」と称...

【百人一首の物語】九十三番「世の中は常にもがもな渚こぐあまの小舟の綱手かなしも」(鎌倉右大臣)

九十三番「世の中は常にもがもな渚こぐあまの小舟の綱手かなしも」(鎌倉右大臣) 歌の「かなし」は「心が惹かれる」という意味です。これを今の「悲しい」とすると、歌の意味が薄弱となってしまいます。とはいえ渚を漕いでゆく漁師の小...

【百人一首の物語】九十二番「わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らねかわく間もなし」(二条院讃岐)

九十二番「わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らねかわく間もなし」(二条院讃岐) 現代短歌の巨人と称される塚本邦雄に「新撰 小倉百人一首」という著書があります。そこで彼は定家撰の百人一首を「凡作百首」であると断言、「真の...

【百人一首の物語】九十一番「きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む」(後京極摂政前太政大臣)

九十一番「きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む」(後京極摂政前太政大臣) 良経は藤原兼実の次男、ちなみに兼実は五摂家の一つである九条家の祖であり、良経は「九条良経」とも表されます。天台座主で歌人として...

【百人一首の物語】九十番「見せばやな雄島のあまの袖だにもぬれにぞぬれし色はかはらず」(殷富門院大輔)

九十番「見せばやな雄島のあまの袖だにもぬれにぞぬれし色はかはらず」(殷富門院大輔) わかりづらい歌ですよね? それはまずこれが本歌取りの歌だからです。ということで先に典拠となった歌をご紹介しましょう。 「松島や雄島の磯に...

【百人一首の物語】八十九番「玉の緒よ絶えなば絶ねながらへば忍ぶることのよはりもぞする」(式子内親王)

八十九番「玉の緒よ絶えなば絶ねながらへば忍ぶることのよはりもぞする」(式子内親王) 百人一首には女性歌人が二十一人採られていますが、皇族は思いのほか少なくて二番の持統天皇と八十九番の式子内親王のみです。持統天皇は天智天皇...

【百人一首の物語】八十八番「難波江の芦のかりねのひとよゆゑ身をつくしてや恋わたるべき」(皇嘉門院別当)

八十八番「難波江の芦のかりねのひとよゆゑ身をつくしてや恋わたるべき」(皇嘉門院別当) 既視感のある歌ですがそれもそのはず、同じ百人一首の十九番※1と二十番※2をあわせたパクリ歌ではありませんか。これは作者たる皇嘉門院別当...

【百人一首の物語】八十七番「村雨の露もまだひぬ真木の葉に霧立のぼる秋の夕暮れ」(寂蓮法師)

八十七番「村雨の露もまだひぬ真木の葉に霧立のぼる秋の夕暮れ」(寂蓮法師) さらに続く坊主は寂連です。鎌倉新仏教の隆盛はまだちょっと先ですが、歌において時代はすでに中世です。寂連は俗名を藤原定長、叔父であった藤原俊成の養子...

【百人一首の物語】八十六番「嘆けとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな」(西行法師)

八十六番「嘆けとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな」(西行法師) 坊主歌人が続きます、その名は西行。西行は人気、実力ともに抜群で、昔も今も風流人の尊敬と憧憬を集めています。その魅力はなんといっても「旅」でしょう...

【百人一首の物語】八十五番「夜もすがらもの思ふころは明けやらで閨のひまさへつれなかりけり」(俊恵法師)

八十五番「夜もすがらもの思ふころは明けやらで閨のひまさへつれなかりけり」(俊恵法師) 寝室の扉の隙間。そこは本来、愛しい人が訪れる希望の通い路である。しかし訪れがないとなれば一転、底知れぬ絶望へと続く蝦蟇口となる。ああ、...