古今和歌集 恋歌残酷物語 その5「末摘花の色」

古今和歌集 恋一【496】「人しれず思えはくるし紅の 末摘花の色にいでなむ」(よみ人しらす)

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あの花見から、ひと月はたっただろか。
のぼせ上がっていたが、この状況を少しは客観的に眺められるようになった。

あの女は本気になってはいけない女だ。
それもそうだろう、私の兄の婚約者なのだから。

しかし世の中には、頭で理解してもどうしようもないことがある。
兄の婚約者だからとて、恋してはならない道理があるか?
欲しいものは欲しい、これは私の真っ直ぐに純粋な欲求だ。
こうしてまた堂々巡りが始まる。
してはならない恋。秘して思うしかないのだろうか。

しかしこのままでは、そうあの末摘花の美しい紅の色のように、遅かれ早かれ思いは表に出てしまうことだろう。
恋に落ちた男はただ無力だ。

(書き手:和歌DJうっちー)
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古今和歌集 恋歌残酷物語 その4「募る恋心」

古今和歌集 恋一【486】「つれもなき人をやねたくしらつゆの おくとはなけきぬとはしのはむ」(よみ人しらす)

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女の姿が強烈に焼き付いて離れない。

霞を隔て、おぼろげに見えただであったのに。
恋が心を惑わせているのだろうか?

癪な話だが

白露が葉に置くように起きては嘆き
寝ては恋しさが募る

(書き手:和歌DJうっちー)
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古今和歌集 恋歌残酷物語 その3「女の横顔」

古今和歌集 恋一【478】「春日野のゆきまを分けて生ひいてくる 草のはつかに見えし君はも」(壬生忠峯)
古今和歌集 恋一【479】「山さくら霞の間よりほのかにも 見てし人こそ恋しかりけれ」(紀貫之)

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私は花見に出かけた。
山には霞が立ち、せっかくの桜を見せまいと隠している。
まあいい。私の目的はこちらの花ではない。

霞の向こうにぼんやりと女たちの姿が見える。
あれは私を手引きした女房か。
だとすると、、、あれが私が思う女?
立ち込める霞の中に、その横顔を垣間見た気がした。

「美しい」
はっと溜息がもれた。
それは満開の桜花を忘れてしまうほどであった。

(書き手:和歌DJうっちー)
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古今和歌集 恋歌残酷物語 その2「見知らぬ女」

古今和歌集 恋一【470】「おとにのみきくの白露よるはおきてひるは思ひにあへすけぬへし」(素性法師)
古今和歌集 恋一【475】「世中はかくこそ有りけれ吹く風のめに見ぬ人もこひしかりけり」(紀貫之)

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恋とはこういうものなのだな。
不思議にこれほど愛おしく思う女に、私は逢ったことがない。

噂に聞くばかりだが、この思いは菊に置く白露のように、
夜は起きて眠ることができず、昼は苦しくて消えてしまいそうだ。

風のように、目に見ることが出来ない人であるが恋しくてたまらない。

どこに吹いて行くのだろう、この恋の風は。

(書き手:和歌DJうっちー)
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見知らぬ女
古今和歌集 恋歌残酷物語 その2「見知らぬ女」

古今和歌集 恋歌残酷物語 その1「狂い咲く恋の花」

古今和歌集 恋一【469】「ほととぎす 鳴くやさつきの あやめ草 あやめも知らぬ 恋もするかな」(よみ人しらず)

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ほととぎすが鳴き、あやめが咲く5月。
穏やかな風の中に佇む一人の男。
その胸の中は、理性の効かぬ思いで乱れていた。
ある女への思い。それはまことに純粋な慕情であった。

「これが恋なのか?」
そう思うのに時間は掛からなかった。
初めての恋なのに。

古今和歌集 恋歌の第一首。
ここから恋の苦悩の物語が始まる。

(書き手:和歌DJうっちー)
→関連記事「5分でわかる恋歌の全て ~古今和歌集 恋歌残酷物語(総集編)~
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和歌の入門教室 「折句」

「折句」は、和歌の中に別の意味を持つ言葉を織り込む言葉遊びです。
似たような技法に「物名」がありますが、「折句」は「5.7.5.7.7」の各句頭に折り込むのが特徴です。 言うなれば「あいうえお作文」のようなものですね。

では歌例をご紹介します。
古今和歌集 439「をぐら山 みねたちならし なく鹿の へにけむ秋を しる人ぞなき」(紀貫之)
句読の5文字を集めると…
「お・み・な・え・し」(女郎花)が詠み込まれていましたね。

それでは一首、上の貫之の歌を本歌にして作ってみましょう。
「をぐら山 もみぢ流して てびきする なみだの川を しる人ぞなき」(和歌DJうっちー)
句読の5文字を集めると…
「お・も・て・な・し」、おもてな~し♪

それでは皆さんも遊んでみましょう!

(書き手:和歌DJうっちー)

「和歌の入門教室 一覧」

和歌の入門教室(修辞法)「縁語」

「縁語」はキーとなる語を設定し、それを連想させる語を歌の中に詠み込む技法です。
例えば「蝶々」をキーワードに据えた場合、「舞う」とか「ひらひら」などの語を合わせて詠むイメージです。
と、一見単純で技法と言っていいのか迷うほどですが、やはりそこは案外奥深いのがこの縁語。

まずは下の歌の縁語がどれか当ててみましょう!
471「吉野川 岩波たかく 行く水の はやくぞ人を 思ひそめてし」(紀貫之)

「岩波」と「水」が「川」の縁語! と即答された方、残念ながら間違いです…
考えてみれば「川」に「水」や「岩」があるのは当たり前ですから、これを縁語としていたらなんでもかんでも縁語になってしまいます。
正解は「はやし」が「川」の縁語です。

では次はどうでしょう。
「由良の門(と)を 渡る舟人 梶をたえ 行へもしらぬ 恋の道かな」(曽禰好忠)

「門(と)」とは瀬戸のことです。ですから「梶」ともに「舟人」の縁語になりそうですが…
答えは「渡る」と「行へ」が「道」の縁語です。

ではなぜ「門」と「梶」は「舟人」の縁語にならないか?
それは「由良の戸を渡る」、「梶をたえ」はともに「舟人」を修飾するひと続きの語句だからです。
文節上つながりがある語は縁語と認められません。
この場合、文節関係になく連想語として詠まれている「渡る」と「行へ」が「道」の縁語となるのです。

このように一見分かりにくい縁語ですが、見つけ方のコツがあります。
それは「掛詞」および「序詞」の中から縁語の片割れを探すのです。これらは叙景と叙情を結び付ける技法ですから、文節上のつながりがない連想語つまり縁語が設定されやすいです。
「掛詞」と「序詞」は見つけやすい技法なのでオススメの判別方法です。

それでは縁語の代表例をみてみましょう。

縁語の代表例

縁語(主) 読み 縁語(副) 歌例
あし よ、ふし、ね 「難波江の 芦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき」(皇嘉門院別当)
あわ きえ、う(浮)、ながれ 「水の泡の 消えてうき身と いひながら 流れて猶も たのまるるかな」(紀友則)
いと ほころぶ、みだる、よりかくる 「青柳の 糸よりかくる 春しもぞ みだれて花の ほころびにける」(紀貫之)
いは くだける 「あしひきの 山したたぎつ 岩波の こころくだけて 人ぞこひしき」(紀貫之)
浮き海布 うきめ なかる、かる 「うきめのみ おひて流るる 浦なれば かりにのみこそ あまはよるらめ」(よみ人しらず)
うら あま、みる 「逢ふ事の なきさにしよる 浪なれば 怨みてのみぞ 立帰りける」(在原元方)
よわる、たゆ、ながし 「唐衣 ひもゆふぐれに なる時は 返す返すぞ 人は恋しき」(よみ人しらず)
かは ながる、すむ、はやし、せ、ふち、そこ、ふかし 「淀川の よどむと人は 見るらめと 流れてふかき 心あるものを」(よみ人しらず)
かり なく、なかそら 「初雁の はつかにこゑを ききしより 中そらにのみ 物を思ふかな」(凡河内躬恒)
きり たつ、はる、まどふ 「花の散る ことやわびしき 春霞 たつたの山の うぐひすの声」(藤原後蔭)
くさ かれ、もゆ 「山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人めも草も かれぬと思へば」(源宗于)
けぶり もゆ、きゆ 「煙たち もゆとも見えぬ 草のはを たれかわらひと なつけそめけむ」(真せいほうし)
こほり とく 「袖ひぢて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ」(紀貫之)
ころも なる、つま、はる、たつ、うら、きる 「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」(在原業平)
さしも草 さしもぐさ もゆる 「けふもまた かくやいふきの さしも草 さらはわれのみ もえやわたらむ」(和泉式部)
時雨 しぐれ うつろふ、もみづ 「今はとて わか身時雨に ふりぬれば 事のはさへに うつろひにけり」(小野小町)
しも おく、きゆ 「わかやどの 菊のかきねに おく霜の 消えかへりてぞ 恋しかりける」(紀友則)
すず ふる、なる 「世にふれば またも越えけり 鈴鹿山 むかしの今に なるにやあるらむ」(徽子女王)
ふち、しがらみ 「瀬をせけば 淵となりても 淀みけり わかれをとむる しからみぞなき」(壬生忠峯)
そで なみだ、むすぶ、とく、おほふ 「袖ひぢて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ」(紀貫之)
いね、かける、かる 「秋の田の いねてふ事も かけなくに 何をうしとか 人のかるらむ」(素性法師)
つき めぐる、くもかくる 「めぐりあひて 見しやそれとも 分かぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな」(紫式部)
つゆ きゆ、おく、むすぶ、もる 「白露も 時雨もいたく もる山は 下葉のこらず 色づきにけり」(紀貫之)
夏野 なつの しげる 「牡鹿ふす 夏野の草の 道をなみ 茂き恋路に まどふころかな」(是則)
難波潟 なにはがた かりね、ひとよ、わたる 「難波江の あしのかりねの ひとよゆへ 身をつくしてや 恋わたるべき」(皇嘉門院別当)
なみ たつ、くだく、ぬる、かける 「わたつみの わが身こす浪 立返り あまのすむてふ うらみつるかな」(よみ人しらず)
はし ふむ 「大江山 いくのの道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立」(小式部内侍)
花薄 はなすすき いづ 「秋の野の 草のたもとか 花すすき ほにいでてまねく 袖と見ゆらむ」(在原棟梁)
春雨 はるさめ ふる、なる 「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに」(小野小町)
ふね わたる 「わがうへに 露ぞおくなる あまの河 とわたる舟の かいの雫か」(よみ人しらず)
みち ふむ、まどふ、ゆくへ、わたる 「由良の戸を わたる舟人 梶をたえ 行方もしらぬ 恋の道かも」(曾根好忠)
海松布 みるめ かる 「みるめなき わが身をうらと しらねばや かれなてあまの あしたゆくくる」(小野小町)
藻塩 もしほ こがる 「こぬ人を まつほの浦の 夕なぎに やくやもしほの 身もこがれつつ」(藤原定家)
ゆき きゆ 「あはぬ夜の ふる白雪と つもりなば 我さへともに 消ぬべきものを」(よみ人知らず)
ゆみ はる、おす、いる 「梓弓 おしてはるさめ けふふりぬ あすさへふらば 若菜つみてむ」(よみ人知らず)

縁語の基本を知ったところで以下の歌をご覧ください。
26「青柳の 糸よりかくる 春しもぞ みだれて花の ほころびにける」(紀貫之)

「よる(撚る)」「かく(搔く)」「はる(春・張る)」「みだる(乱る)」「ほころぶ(綻ぶ)」が「糸」の縁語です。
さすが稀代の名手たる紀貫之!
縁語がまさに「縁」となって、目には見えない荒ぶる春風を描いています。

→関連記事「貫之様にインタビューしてみた ~古今和歌集 仮名序妄訳~

さて、和歌の修辞法のなかでも枕詞や掛詞は派手さがあり、いわばアンサンブルにおけるトランペットやギターのような存在ですが、一方の縁語はチューバまたはドラムのように地味でほとんど目立ちません。

しかし! 和歌を和歌となす世界観は、縁語構成によってのみ成されるのです。
例えば題が「川」であったら、その歌は流れの「早さ」また、水底の「深さ」を詠み込むのです。
ここで「泳ぐ」なんて詠んだら、それは和歌ではないのです。

となると、こんな声が挙がりそうですね。
題も言葉も制限された画一的な文芸の、はたしてどこに面白さがあるのか?

ジャズを考えてみてください。
アコースティックジャズはスケールやコードといった制限に捉われつつも、その中で創意され聴き飽きるということはありません。
要するに和歌も多様ではなく深淵な工夫を楽しむ作品なのです。

和歌を鑑賞する際はぜひ、三十一文字の底で静かに響く、「縁語」に聴き耳を立ててみてください。

(書き手:和歌DJうっちー)

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和歌の入門教室(修辞法)「掛詞」

「掛詞」は同音異義になる景物と心情の言葉を掛け合わせて歌に詠む技法です。
例えば「あき」に(秋)と(飽き)を、「まつ」に(松)と(待つ)を掛けるといった感じです。
まあ要するに「ダジャレ」ですね。

この記事の音声配信「第19回 クイズ、掛詞はどれだ!?」を
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「掛詞」は、和歌の言葉遊びの面が最も分かりやすく表されるていますが、使い方には注意が必要です。
ダジャレも度が過ぎると「オヤジギャグ」と失笑されるように…
それでは掛詞が見事に使われている歌例をご紹介しましょう。

「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」(小野小町)
「ふる」が(降る)と(経る)に、「ながめ」が(長雨)と(眺め)に掛けられています。
物思いに耽っている間に、花の色は虚しく失せてしまった。という表意の裏で、春の陰鬱な長雨の風景が浮かび上がります。
掛詞を2つ使いながらも、歌の表と裏が見事に協和しています。歌の作者が絶世の美女と評された小野小町というのもまた、この歌を魅力的なものにしていますね。

ちなみに現代の掛詞にも高度なものがあります。
それはJR東日本が発行している「Suica」です。
Suicaの名称は「Super Urban Intelligent CArd」の略称に由来し、「スイスイ行けるICカード」の意味合いも持たせつつ、かつ果実のスイカと語呂合わせしています。つまり1音に3つの意味を(無理やり)掛け合わせているのです!
Suicaを東の横綱とすれば、西の横綱はJR西日本が発行している「ICOCA」でしょうか。ICOCAは 「IC Operating CArd」の略称と関西弁の「行こか」の2つの意味合いが掛けられています、もはやダジャレ大合戦です。

話が脱線してしまいましたね。
では和歌でよく使われる掛詞をご紹介しましょう。

代表的な掛詞

あき 秋、飽き 「あき風に 山のこの葉の 移ろへば 人の心も いかがとぞ思ふ」(素性法師)
あふさか 逢坂、逢ふ 「かつ越えて 別れもゆくか あふ坂は 人だのめなる 名にこそありけれ」(紀貫之)
いなば 因幡、往なば 「たち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む」(納言行平)
うき 浮き、憂き 「水の泡の 消えてうき身と いひながら 流れて猶も 頼まるるかな」(紀友則)
うじ 宇治、憂し 「わが庵は 都のたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり」(喜撰法師)
うらみ 浦見、恨み 「逢ふ事の なきさにしよる 浪なれば うらみてのみぞ 立帰りける」(在原元方)
おく 置く、起く 「音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼は思ひに あへず消ぬべし」(素性法師)
かり 刈り、仮、雁 「難波江の 芦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき」(皇嘉門院)
かる 枯る、離る、借る 「山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人めも草も かれぬと思へば」(源宗于)
きく 菊、聞く 「音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼は思ひに あへず消ぬべし」(素性法師)
きぬぎぬ 衣衣、後朝 「東雲の ほがらほがらと 明けゆけば おのがきぬぎぬ なるぞ悲しき」(よみ人しらず)
しのぶぐさ 忍ぶ草、しのぶ 「君しのぶ 草にやつるる 古里は まつ虫の音ぞ 悲しかりける」(よみ人しらず)
しみ 染み、凍み 「笹の葉に おく初霜の 夜をさむみ しみはつくとも 色にいでめや」(凡河内躬恒)
すみ 澄み、住み 「白河の 知らずともいはじ そこ清み 流れて世世に すまむと思へば」(平貞文)
たより 便り、頼り 「たよりにも あらぬ思ひの あやしきは 心を人に つくるなりけり」(在原元方)
つつみ 堤、包み 「思へども 人めつつみの 高ければ 河と見なから えこそ渡らね」(よみ人しらず)
つま 褄、妻 「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」(在原業平)
ながめ 長雨、眺め 「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに」(小野小町)
なかれ 流れ、泣かれ 「山高み した行く水の したにのみ なかれてこひむ こひはしぬとも」(よみ人しらず)
根、音、子、寝 「風ふけば 浪打つ岸の 松なれや ねにあらはれて なきぬべらなり」(よみひ)
はる 春、張る、晴る 「霞たち このめもはるの 雪ふれば 花なき里も 花ぞちりける」(紀貫之)
火、思ひ、恋ひ 「人知れぬ 思ひをつねに するがなる 富士の山こそ わが身なりけれ」(よみ人しらず)
ひも 紐、日も 「唐衣 ひもゆふぐれに なる時は 返す返すぞ 人は恋しき」(よみ人しらず)
ふみ 踏み、文 「大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立」(小式部内侍)
ふる 降る、経る、振る、古る 「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに」(小野小町)
まつ 松、待つ 「立ち別れ いなばの山の 嶺におふる まつとし聞かば 今かへりこむ」(中納言行平)
みおつくし 澪標、身を尽くし 「わびぬれば 今はた同じ 難波なる 身をつくしても あはむとぞ思ふ」(元良親王)
みるめ 海松布、見る目 「しきたへの 枕の下に 海はあれど 人をみるめは 生ひずぞ有りける」(紀友則)
ゆふ 結ふ、夕、木綿襷 「唐衣 ひもゆふぐれに なる時は 返す返すぞ 人はこひしき」(よみ人しらず)
節、夜、世、代 「難波江の 芦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき」(皇嘉門院)

ちなみに、古今和歌集の和歌(四季(春、夏、秋、冬)、恋(一、二、三、四、五)を含むおよそ800首)で頻出の掛詞は以下になります。
■5首以上
・うら(浦、恨)
・かる(枯る、離る)
・なかれ(流れ、泣かれ)
・なき(無き、泣き)
・まつ(松、待つ)
・みるめ(海松目、見る目)
■10首以上
・あき(秋、飽き)
・おもひ(火、思ひ)

掛詞を見ただけでも、忍び泣きの男女が目に浮かびます。。

では最後に問題です!
下の和歌には、いくつの掛詞があるでしょうか?
769「ひとりのみ ながめふるやの つまなれば 人をしのぶの 草ぞ生ひける」(貞登)

正解は…
ながめ(長雨、眺め)、ふる(降る、古る)、しのぶ(しのぶ草、忍ぶ)の計3つです。

ではこの歌の掛詞を探してみましょう。
「唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」(在原業平)

言わずと知れた、伊勢物語第九段「東下り」の歌です。
正解は…
き(着、来)、なれ(馴れ、慣れ)、つま(褄、妻)、はる(張る、遥る)のなんと計4つです!
「着物」の縁語が全て掛詞になっています。
→関連記事「和歌の入門教室 縁語

技巧的には驚きですが、なんだが分かりにくい和歌ですね。
これはギャグの度が過ぎてしまった例かもしれません。

(書き手:和歌DJうっちー)
「和歌の入門教室 一覧」

和歌の入門教室(修辞法)「序詞」

今回は「序詞」を知りましょう。
「序詞」は前回紹介した「枕詞」と同じように、ある語を修飾、別の言い方をすると歌のイメージを膨らませる役割を持っています。
ただ「枕詞」と違って口語訳します。また常套句ではないため、字数や表現に制限がありません。

歌の例をあげましょう。
「あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を 一人かも寝む」(柿本人麻呂)

序詞は「あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の」の部分で、「ながながし」を装飾しています。
唐突に山鳥の尾っぽを出して、「長い」ということを強調しています。
でもなぜ「山鳥の尾」なのでしょう?
たんに長いということであれば「我が履く 裾からしだる ふんどしの」でもよさそうですが。。

実は山鳥、「昼はオスとメスが一緒に過ごすけれど、夜は別れて寝る」という「歌ことば」の設定があるのです
→関連記事「和歌と短歌の違い ~歌ことば編~

「山鳥」を登場させて「孤独な夜」の連想をより強める効果を狙ったのですね。
さすが歌の聖、人麻呂!
→関連記事「柿本人麻呂 ~みんなの憧れ、聖☆歌人~

さて、「序詞」は字数や表現に制限がないとはいえ、装飾する語との繋がり方に一定のルールがあります。
その1が「比喩で繋がる」です。
上で挙げた「「あしひきの やまどりの尾の しだり尾の」がそれですね。

他にも
「みちのくの しのぶもぢずり 誰ゆへに みだれそめにし 我ならなくに」(河原左大臣)
「由良のとを 渡る舟人 かぢをたえ 行へもしらぬ 恋のみちかな」(曽禰好忠)
などがあります。

その2は「同音反復で繋がる」です。
「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしもしらじな もゆる思ひを」(藤原実方)
「浅茅生の をののしのはら 忍ぶれど あまりてなどか 人のこひしき」(参議等)
「さしも草」からの「さしもしらじな」、「しのはら」からの「しのぶれど」と同じ音を続けることでリズミカルに繋がります。

その3は「直後が掛詞で繋がる」です。
「難波江の あしのかりねの ひとよゆへ 身をつくしてや 恋わたるべき」(皇嘉門院別当)
「唐衣 ひもゆふくれに なる時は 返す返すぞ 人は恋しき」(よみ人しらず)
「かりね」が「刈り根」と「仮寝」、「ゆふ」が「結う」と「夕」に掛けられています。

序詞が特に重宝されるのが恋歌です。
平安貴族にとって雄々しくストレートに「好きです」なんて言うことは“ダサい男”のやることでした。
スマートなモテ男は、熱い恋心を優美に甘美に花鳥風月に例え歌に託すのです。
となれば当然、その歌は序詞(比喩)が活躍するということですね。

例えば…
478「春日野の 雪間を分けて 生ひいてくる 草のはつかに 見えしきみはも」(壬生忠峯)
冬の寒さが和らぎはじめ、雪に覆われた春日野にも暖かな日差しが降り注ぐ。
ふと足元を見る。すると若草が僅かに顔を出しているではないか。
これは春が、いや恋が始まる予感。
そんな感じであなたをチラ見しました!!

さらにはこんな歌も
583「秋の野に 乱れて咲ける 花の色の ちくさに物を 思ふころかな」(紀貫之)
萩、桔梗、藤袴、女郎花…
秋の野は色とりどりに咲き乱れている。
そんな感じで、あなたへの思いで心がいっぱい乱れまくってます!!

序詞の出来いかんで、恋歌の良し悪しが決まることがお分かりいただけたでしょう。
→関連記事「恋の和歌はなぜつまらないか?

なんとも耽美な世界。
男女がまともに対面出来ない時代には、このくどい言い回し、
もとい、この知性とセンスに溢れる口説き文句が必須だったのです。
これは真似をしろと言われても、非常に難易度が高いですね。
負けるな現代男子!

(書き手:和歌DJうっちー)

「和歌の入門教室 一覧」

和歌の入門教室(修辞法)「枕詞」

枕詞は5文字の常套句で、修飾する語とされる語のペアが決まっているのが特徴です。
「ひさかたの」とくれば「光」と続くのが分かりやすい例ですね。

ちなみに枕詞自体は口語訳しません。つまり歌意の上ではなくても支障がないのです。
と、ここで疑問が。
和歌は31文字で構成されますが、貴重な文字数を犠牲にしてなぜ意味のない語を詠むのでしょう?

それは枕詞が文字数以上の効果を持っているからです。
例えば「世の中」と単に言うより「うつせみの世の中」と言った方が、なんだか意味深で重厚さを感じますよね?
このように受け手のイメージの想起を促すのが枕詞です。

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実はこの枕詞、現代でも多用されています。
どこで?
それは広告のコピーです!
「こだわりの逸品」、「上質の空間」、「伝統の技」、「自然豊かな味」…

何か言ってるようで何も言っていない、まさにマジックワード!
手軽で便利な枕詞ですが、和歌もキャッチコピーも安易に使うのは避けたほうが無難です。

代表的な枕詞と歌例

あさぢふの 小野 「あさちふの 小野の篠原 しのぶとも 人しるらめや いふ人なしに」(よみ人しらず)
あしひきの 山、峰、木の間 「あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む」(柿本人麿)
あづさゆみ 張る(春)、引く、射る 「あづさゆみ 春たちしより 年月の 射るかごとくも おもほゆるかな」(凡河内躬恒)
あらたまの 年、月、日、春(新春) 「あらたまの 年のおわりに なるごとに 雪も我が身も ふりまさりつつ」(在原元方)
あをによし 奈良 「あおによし 奈良の都は 咲く花の におうがごとく いま盛りなり」(小野老)
うつせみの 世、身、命、人 「うつせみの 世にもにたるか 花ざくら 咲くと見しまに かつ散りにけり」(よみ人しらず)
うばたまの 黒、夜、闇、月、夢 「いとせめて 恋しき時は うばたまの 夜の衣を 返してぞ着る」(小野小町)
からころも 着る、裁つ、袖 「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」(在原業平)
くれたけの 節(世、夜) 「世にふれば 事のはしげき くれ竹の うきふしごとに 鶯ぞなく」(よみ人しらず)
しののめの 明るく、ほがら 「しののめの ほがらほがら とあけゆけば おのがきぬぎぬ なるぞかなしき」(よみ人しらず)
しろたえの 衣、袖、袂、雪、雲、浪 「春日野の 若菜摘にや しろたえの 袖振り映えて 人のゆくらむ」(紀貫之 )
たまのをの 絶ゆ、継ぐ、乱る、長し、短し 「下にのみ 恋ふればくるし たまのをの 絶えて乱れむ 人なとがめそ」(紀友則 )
たらちねの 母、親 「たらちねの 親のまもりと あひそふる 心ばかりは せきなとどめそ」(小野千古母)
ちはやふる 神、神社 「ちはやふる 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」(在原業平)
なつくさの 深し、繁し、野、刈る 「かれはてむ のちをはしらで 夏草の 深くも人の おもほゆるかな」(凡河内躬恒)
ひさかたの 天、空、光、雨、月、雲 「ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ」(紀友則)
やくもたつ 出雲 「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」(須佐之男命)
わかくさの 妻、夫、新、若 「春日野は けふはなやきそ わか草の つまもこもれり 我もこもれり」(よみ人しらず)

※枕詞は古今和歌集では50種弱、万葉集ではなんと500種以上あると言われています。

(書き手:和歌DJうっちー)

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