行きなやむ牛のあゆみに立つ塵の風さへ暑き夏の小車(藤原定家)

今日の一首はそれだけで、玉葉集のそして藤原定家という人のチャレンジングな面が分かる。『歩くのも苦労する牛の足取りに、立ち起こる塵の風までも暑い夏の小車よ』。まず牛車を扱っただけでも新しさがあるが、新奇性の心眼は「夏の暑さ」というものを真正面に据えて、そこにある美を捉えようとしたことだ。和歌とくに勅撰集の夏はいつだって暑さを無視続けてきた、定家はここに新たな刃を引き抜いたのだ。では肝心の歌の美がこの歌にあるだろうか? 残念ながら否というよりほかない。しかし決して悪い歌ではない、上句の「や行」が効果的で、牛の歩みにゆったりしとた重みをもたせている。間違いなく私たちは、粉塵巻き起こる干乾びた都通りを想像することができるだろう。

(日めくりめく一首)

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