鳴く声も聞こえぬ虫の思ひだに人の消つには消ゆるものかは(蛍兵部卿宮)

「咬ませ犬」という言葉があるが、今日の詠み人は日本文学史上それに相応しい初めての人だろう。源氏物語に登場する蛍兵部卿宮だ。源氏の異母兄弟で、絵合わせや薫物合わせの判者をも務める風流人として描かれるが、なかでも印象的なのが...

音もせでおもひに燃ゆる蛍こそなく虫よりもあはれなりけれ(源重之)

ラフマニノフの心地よさと言ったらいいだろうか。甘美で艶なる旋律は抒情をやすやすと揺さぶってみせる。源重之の歌はまさに正統的な詠みぶりで、つね外れることのない安心感がある。『音もせずに忍んで恋に燃える蛍は、鳴く虫よりも心に...

沢水に空なる星のうつるかと見ゆるは夜半の蛍なりけり(藤原良経)

詠み人に良経とあるが、その仮名序をも記した新古今時代の才器ではない。藤原行成の子である。後拾遺和歌集に採られた歌であるが、意外にも蛍という言葉が明確に四季に詠まれたのは、この集が初めてである。蛍は「火」と「思ひ」を掛け、...

埋れ木の花さく事もなかりしに身のなる果ぞ悲しかりける(源頼政)

花の文字が見えるが季語にならない、埋れ木となって果てる我が身を譬えた源頼政の辞世歌だ。頼政は平治の乱に平家方として加わり清盛政権において従三位に昇った。しかし源氏の魂は朽ちず以仁王を伴って挙兵、宇治川の戦いに敗れ、最後は...

→「ろっこの和歌Bar(7月の夜会)」7/24(水)19:30~22:00