和歌における恋のテーマ・歌題その1「初恋(はじめたるこひ)」

「初恋」は「はつこひ」ではなく「はじめたるこひ」と読みます。すなわち『人生初めての恋』にかぎらず、ある人物との『恋の最初の段階』で詠まれるのが「初恋」の歌ということになります。
たとえば、心に芽生えた淡い思いを詠んだ歌、それを伝えたいという願望などの歌です。恋における最初のアプローチですからね、相手に好印象を与えられるよう、序詞などの譬喩や縁語、掛詞などを使用して、スマートかつ優美に詠むことが求められます。

それではよく知られる「初恋」の歌をご紹介しましょう。

『古今集』恋歌一より

題しらず
「ほととぎすなくや五月のあやめ草あやめも知らぬ恋もするかな」(よみ人しらず)
「おとにのみきくの白露よるはおきてひるは思ひにあへずけぬべし」(素性法師)
「吉野河いは浪たかく行く水のはやくぞ人を思ひそめてし」(貫之)

春日の祭りにまかれりける時に、物見にいでたりける女のもとに家をたづねてつかはせりける
「かすがののゆきまをわけておひいでくる草のはつかに見えしきみはも」(壬生忠岑)

人の花摘みしける所にまかりて、そこなりける人のもとにのちに詠みてつかはしける
「山ざくら霞のまよりほのかにも見てし人こそこひしかりけれ」(貫之)

『堀河百首』恋十首「初恋」より

「おもひあまりけふいひ出す池水のふかき心を人はしらなん」(顕季)
「難波えのもにうづもるる玉がしはあらはれてだに人を恋ひばや」(俊頼)
「池水のふかき心をとしふともいひ出さずはいかがもらさん」(永縁)
「まだしらぬ人を始てこふるかなおもふ心よ道しるべせよ」(肥後)
「よそながら恋は色にもあらなくに心に深くおもひそめてき」(紀伊)

『金葉和歌集』恋部より

五月五日はじめたる女のもとにつかはしける
「しらざりつ袖のみぬれてあやめぐさかかるこひぢにおひん物とは」(小一条院)

題不知  
「かくとだにまだいはしろのむすび松むすぼほれたるわがこころかな」(源顕国朝臣)

国信卿家歌合に初恋の心をよめる
「けふこそはいはせのもりのしたもみぢ色にいづればちりもしぬらめ」(源兼昌)

『六百番歌合』恋一「初恋」より

一番 初恋 左持     
「しらざりしわがこひぐさやしげるらんきのふはかかる袖のつゆかは」(女房)
右     
「けさまでもかかるおもひはなきものをあはれあやしきわがこころかな」(信定)

二番 左勝     
「ゆくすゑのなみだの程ぞしられぬるけふぬれそむるそでのしづくに」(季経卿)
右     
「ききもせずきかずしもなき君ゆゑにおもひさだめぬこひもするかな」(経家)

四番 左勝    
「なびかじなあまのもしほびたきそめてけぶりは空にくゆりわぶとも」(定家朝臣)
右    
「あしの屋のひまもるあめのしづくこそおときかぬより袖はぬれけり」(隆信朝臣)

『新古今集』恋歌一より

中将更衣につかはしける 
「むらさきの色に心はあらねどもふかくぞ人をおもひそめつる」(延喜御歌)

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