袖ぬるる露のゆかりと思ふにもなほ疎まれぬ大和撫子(藤壺)

源氏の贈答歌には、不義の罪業を共にせんとの嘆願がみえた。藤壺はこれにどう答えたか? 以前にも少し触れたが今日の歌、古註論争に事欠かない。初句「袖ぬるる」の主体を藤壺とみるか源氏とみるか、四句「なほうとまれぬ」を「打消」とみるか「完了」とみるか、これら組み合わせによって少なくとも4つの解釈が成り立つからだ。ただ答えは決まっていよう、『袖を濡らしてらっしゃるあなた(源氏)の縁と思うにつけて、やはり憎らしく思われる大和撫子(若宮)よ』。源氏にとっては一夜の過ちであったかもしれない、しかし藤壺には三世に渡る大罪であったのだ。二度と関係を持つまいと、藤壺は源氏を生涯遠ざけた。一緒に泣いて慰め合うなんて、そんな情などゆめなかったのである。源氏物語という怪物の凄みはこの一首で十分想像できるというものだ。

(日めくりめく一首)

和歌の型(基礎)を学び、詠んでみよう!

代表的な古典作品に学び、一人ひとりが伝統的「和歌」を詠めるようになることを目標とした「歌塾」開催中!

季刊誌「和歌文芸」
令和六年冬号(Amazonにて販売中)