野分の風

昨日9月4日、非常に強い台風21号が列島を通過し各地に甚大な被害をもたらしました。
なんと関西国際空港では、最大瞬間風速58.1m/sを記録したそうです。
なんだか今年は台風が多いような気がしますね、、
それもそのはず、気象庁によると統計が残る1951年以降、71年に次ぐ2番目のハイペースで発生しているそうです。

さてこの「台風」、古くは「野分(のわき)」と呼ばれていたことをご存知でしょうか?
古典好きのみなさまのことです、そんなことはもちろん「野分」という言葉に、きっとこのワンシーンまでも思い起こされることでしょう、「源氏物語」第二十八帖『野分』です。

ある野分の日、夕霧(源氏の息子)は父の居館を訪れます。
あいにく父は留守だったのですが、開いていた妻戸の隙間からとんでもないものを目にしてしまいます。
それは継母でありながら、長年遠ざけられてきた「紫の上」です。
その時の様子が、、

「御屏風も風のいたく吹きければ、押し畳み寄せたるに見通しあらはなる。
廂の御座にいたまへる人、ものにまぎるべくもあらず気高く清らにさと匂ふ心地して、
春のあけぼのの霞の間よりおもしろき樺桜の咲き乱れたるを見る心地す」
源氏物語(野分)

普段はしっかり屏風を立てその存在を隠していたのでしょう。
しかし、この日は野分の風が強かったため屏風を畳んでいたんですね。
そこで偶然継母を目にして「春の曙の霞の間から、樺桜が咲き乱れているのを見る気持ち」だったというのです。

秋にもかかわらず「春の霞の間の蒲桜」、さすが春の女王と評される紫の上!
なるほど実の息子である自分を遠ざける訳だ、と夕霧も納得してしまう、紫の上とはどれほどの美しさだったのか?
想像が掻き立てられる、源氏物語の中でも特に印象的なワンシーンです。

台風もこんな風情を演出してくれるのなら歓迎ですが、
最大瞬間風速58.1m/sではそんな余裕はまずなさそうです。

(書き手:歌僧 内田圓学)

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