かすがのの雪間をわけておひいでくる草のはつかに見えしきみはも(壬生忠岑)

恋がはじまる季節といえばいつだろう。情熱燃え盛る夏、感傷深まる秋、ゲレンデのアバンチュール冬。どれも違う。どう考えたって春じゃないか。この歌は春、運命的な女性との出会いのシーンをとらえた歌だ。雪の間から生えくるあの若草の...

ひき別れとしはふれどもうぐひすの巣たちしまつのねを忘れめや(明石の姫君)

昨日ご紹介した歌は母なる明石の君による贈答歌であったが、今日の歌はその娘、明石の姫君の返歌となる。ちなみに両歌とも主題は「まつ」(松と待つ)である。よって縁語として「引く」が得られるのだが、これは当時の貴族が年始の初子の...

年月をまつにひかれてふる人にけふうくひすの初音きかせよ(明石の君)

「初音」といえば取りも直さず「ミク」だろう。しかし、こと古典文学に至っては違うものを連想しなければならない、源氏物語で詠まれた今日の「うぐいす」の歌である。春を心待ちにする表の心情に、出自の貧しさゆえに実の娘に合うことが...

いづる日のおなじひかりによもの海のなみにもけふや春はたつらむ(藤原定家)

なるほど、凡作である。波と春が「立つ」という、立春歌“あるある”で構成された、ほとんど見どころがない歌だ。しかしこの歌の作者はだれあろう、かの権中納言藤原定家卿である。所収は彼の「初学百首」、御大二十歳の作とはいえ、後の...

ふる雪のみのしろ衣うち着つつ春きにけりとおどろかれぬる(藤原敏行)

後撰和歌集の一番歌である。本集編纂においてはじめて宮中に「和歌所」がおかれ、これに命じられた五人(梨壺の五人)は万葉集訓釈の任も成した。いよいよ和歌は宮廷文学のその頂きに至ったのだ。 歌であるが、目につくのは結句「おどろ...

あたらしき年のはじめにかくしこそ千歳をかねてたのしきをつめ(よみ人知らず)

古今集蒐集の大歌所御歌、詞書きにある「おほなほびのうた」とは大直毘神という禍いや穢れを治す神さまで、お正月にピッタリの目出たい歌である。内容はいたってシンプルで「千歳」なんて気の利いたことばさえ知っていれば誰でも詠めそう...

年のうちに春はきにけりひととせを去年とやいはむ今年とやいはむ(在原元方)

初代勅撰和歌集「古今和歌集」の巻頭を飾る歌である。もしこれが歌集を象徴するその位置になければ、古今集いや古典和歌はもう少し輝きを残していたかもしれない。『まだ年内なのに、もう春が来た。この一年を去年というべきか今年といべ...