かすがのの雪間をわけておひいでくる草のはつかに見えしきみはも(壬生忠岑)

恋がはじまる季節といえばいつだろう。情熱燃え盛る夏、感傷深まる秋、ゲレンデのアバンチュール冬。どれも違う。どう考えたって春じゃないか。この歌は春、運命的な女性との出会いのシーンをとらえた歌だ。雪の間から生えくるあの若草のように、ほんの一瞬見えた君、衝撃のチラリズム! 誰にもあるだろう、一目惚れの瞬間が見事に歌われている。この歌が活きているのは「若菜」である、この言葉ひとつに我々は青春の初々しさを思うのである。この歌に共感できない人間がいるならば、きっとまっとうな恋をしてこなかったのだろう。

(日めくりめく一首)

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