和歌の入門教室(修辞法)「枕詞」

枕詞は5文字の常套句で、修飾する語とされる語のペアが決まっているのが特徴です。
「ひさかたの」とくれば「光」と続くのが分かりやすい例ですね。

ちなみに枕詞自体は口語訳しません。つまり歌意の上ではなくても支障がないのです。
と、ここで疑問が。
和歌は31文字で構成されますが、貴重な文字数を犠牲にしてなぜ意味のない語を詠むのでしょう?

それは枕詞が文字数以上の効果を持っているからです。
例えば「世の中」と単に言うより「うつせみの世の中」と言った方が、なんだか意味深で重厚さを感じますよね?
このように受け手のイメージの想起を促すのが枕詞です。

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実はこの枕詞、現代でも多用されています。
どこで?
それは広告のコピーです!
「こだわりの逸品」、「上質の空間」、「伝統の技」、「自然豊かな味」…

何か言ってるようで何も言っていない、まさにマジックワード!
手軽で便利な枕詞ですが、和歌もキャッチコピーも安易に使うのは避けたほうが無難です。

代表的な枕詞と歌例

あさぢふの 小野 「あさちふの 小野の篠原 しのぶとも 人しるらめや いふ人なしに」(よみ人しらず)
あしひきの 山、峰、木の間 「あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む」(柿本人麿)
あづさゆみ 張る(春)、引く、射る 「あづさゆみ 春たちしより 年月の 射るかごとくも おもほゆるかな」(凡河内躬恒)
あらたまの 年、月、日、春(新春) 「あらたまの 年のおわりに なるごとに 雪も我が身も ふりまさりつつ」(在原元方)
あをによし 奈良 「あおによし 奈良の都は 咲く花の におうがごとく いま盛りなり」(小野老)
うつせみの 世、身、命、人 「うつせみの 世にもにたるか 花ざくら 咲くと見しまに かつ散りにけり」(よみ人しらず)
うばたまの 黒、夜、闇、月、夢 「いとせめて 恋しき時は うばたまの 夜の衣を 返してぞ着る」(小野小町)
からころも 着る、裁つ、袖 「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」(在原業平)
くれたけの 節(世、夜) 「世にふれば 事のはしげき くれ竹の うきふしごとに 鶯ぞなく」(よみ人しらず)
しののめの 明るく、ほがら 「しののめの ほがらほがら とあけゆけば おのがきぬぎぬ なるぞかなしき」(よみ人しらず)
しろたえの 衣、袖、袂、雪、雲、浪 「春日野の 若菜摘にや しろたえの 袖振り映えて 人のゆくらむ」(紀貫之 )
たまのをの 絶ゆ、継ぐ、乱る、長し、短し 「下にのみ 恋ふればくるし たまのをの 絶えて乱れむ 人なとがめそ」(紀友則 )
たらちねの 母、親 「たらちねの 親のまもりと あひそふる 心ばかりは せきなとどめそ」(小野千古母)
ちはやふる 神、神社 「ちはやふる 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」(在原業平)
なつくさの 深し、繁し、野、刈る 「かれはてむ のちをはしらで 夏草の 深くも人の おもほゆるかな」(凡河内躬恒)
ひさかたの 天、空、光、雨、月、雲 「ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ」(紀友則)
やくもたつ 出雲 「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」(須佐之男命)
わかくさの 妻、夫、新、若 「春日野は けふはなやきそ わか草の つまもこもれり 我もこもれり」(よみ人しらず)

※枕詞は古今和歌集では50種弱、万葉集ではなんと500種以上あると言われています。

(書き手:歌僧 内田圓学)

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