撫子のとこなつかしき色を見ば元の垣根を人や尋ねむ(光源氏)

「撫子」は別に「常夏(とこなつ)」の異名を持つ。これは撫子が秋の七草にも数えられるように、夏を越え秋にかけて花を咲かせることに由来する。さて、今日の歌は源氏物語から撰んだ、巻はずばり「常夏」、いわゆる「玉鬘十帖」の中ほどにあたる。『撫子の常変わらぬ美しさを見れば、元の垣根の人はきっと尋ねて来てくれますよ』。ここで撫子は「玉鬘」を指す、源氏はこれを養女としていたが、その実彼女は夕顔と内大臣(頭中将)の落とし胤、歌では元の垣根たる内大臣との再会をほのめかす。ところが内心源氏は玉鬘にぞっこん、ムラムラとよからぬ心を起こしている。それは歌にも見えよう、「常夏」は「床(=ベッド)」に掛けて多く恋歌に詠まれる。つまりこれは誠実なフリをして、オッサンの隠しきれなかった妄想が思わず出てしまっているのだ。

(日めくりめく一首)

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