人はいさ心もしらずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける(紀貫之)

『あなたの心は分からないけれど、花は昔と同じに香っている』。百人一首にも採られた、和歌ファンであれば誰もが知る歌である。和歌でたんに「花」とすれば通例で「桜」を指すが、ここでは香りが詠まれているので「梅」となる。初句に置いた「人はいさ」が軽みを生じ、技巧的ではないが貫之らしい既知にとんだ歌になっている。詞書をみると、どうやら詠みかけた相手とは親しい間柄らしい。古来、これを男とみるか、女とみるか意見は分かれているようだが、やはり女としなければ情趣が湧いてこない。貫之は職業歌人として幾首もの恋歌を詠んでいるが、このように実感を含んだ歌は珍しい。そういった意味でも、この歌に艶のある梅の園を思い描きたい。

(日めくりめく一首)

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