照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき(大江千里)

新古今がなかったら、日本の四季はもっと単調だったかもしれない。後鳥羽院は秋ではなく春の夕べを発見し、定家は同じくおぼろ月に情趣を得た。
『はっきりしない春のおぼろ月夜は最高だ!』、白楽天の「不明不暗朧朧月」をほぼ直訳しただけの退屈なこの歌を定家ら新古今撰者は採った。転機はあった。源氏物語八帖「花宴」、「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさんだ女との危険な情事。藤原俊成もかの六百番歌合で花宴に最上の評価をしている。現代でも月といえば「中秋の名月」と安易に認識され、清く澄んだ姿を愛でるのが一般化しているが、源氏以後、定家らによって至上の評価を得たのは春の夜の月であったことを忘れてはならない。

(日めくりめく一首)

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