三十九番 「浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき」(参議等)
前歌は女の「待つ恋」でしたが、ここからは三首、男の「しのぶ恋」が続きます。
参議等は源等、後撰集に数首の恋歌が採られていますが、そのことごとくが理知が込んでいます。百人一首歌は二句までが「しのぶ」を導く同音反復の序詞になっていて、構成としては人麻呂の三番「あしひきの」とほぼ同じ(「ながながし」は譬喩の序詞)。ところで人麻呂の「山鳥」には序詞とば別に意味がありました、それは山鳥は夜に雌雄別れて寝るという設定です。長い尾をたんに秋の「夜長」に譬えただけでなく、一人寝の寂しさを際立たせるため、わざわざ山鳥を選んだのですね。では等の歌はどうか? やはりあるんです。「篠竹」はわずかな風にも敏感に音を立てます、つまり等はこの繊細なざわめきを人目をしのぶ危うい恋心に重ねたんです。四句目の転調、緩急をつけた言葉の運び方も上手く、耳に残るたいへん出来の良い恋歌です。
(書き手:歌僧 内田圓学)
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