紅葉を書く「山川に」

三十二番「山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり」(春道列樹)

取ってつけたような風雅であるが、嫌味がない。それは名前のせいだろうか、“春道列樹(はるみちのつらき)”とは歌詠みが宿命というべき美しい名だ。しかし勅撰集入集はわずか五首にとどまり、期待には遠かった。それでも定家が採ったのはこの歌に一つの技量を見出したのだろう。風を「擬人化」し、紅葉を柵(しがらみ)に「見立て」た風雅、春道はさらりとやってみせるが、これを一首の中でまとめるのは思うほど簡単ではない。漢詩にも劣らぬ和歌の技巧、そのベストプラクティスとしてこの歌はうってつけであったのだ。しかしどうせ採るなら春の歌であったら、彼の名は一段と映えたことだろう。

(書き手:歌僧 内田圓学)

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