入り方の月の空さへ響くまで遠ぢの村は衣打つなり(藤原実兼)

アイロンという製品がなかった時代、洗濯物のシワを伸ばすにはどうしたか? 棒や槌で叩いたのである。これを「砧(きぬた)」といい、古典和歌ではその情景が多く詠まれた。いや棒を詠んだのではない、砧で衣を打つ音、それが秋の夜長に響き渡る風情を歌にしたのだ。今日の歌は玉葉集から、『月の入る空の果てまで響くかのように、遥か遠い村の砧を打つ音が聞こえる』。コーン、コーンと高く乾いた音色、野口雨情が童謡「砧の音」に書いた大正時代までは当たり前の風景であった。

(日めくりめく一首)

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