唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ(在原業平)

いずれ菖蒲か杜若というが、和歌でこのふたつを見分けるのは易しい。歌に詠まれる菖蒲はいわゆる「花菖蒲」ではなく「根菖蒲」であるため、違いが一目瞭然なのだ。しかしながらこの歌、杜若が詠まれているのだが、それが一見して見当たらない。「長い旅路でくたくたになった着物」を詠んだ歌のようだが、杜若の単語などないではないか。実はこれ、「折句」になっている。五七五七七それぞれの句頭をつまんでみてほしい、すると「か・き・つ・ば・た」とみごとに現れるではないか! この歌がすごいのはそれだけなく枕詞、序詞、掛詞、縁語が使われて、古典和歌の技法がほぼすべてが詰まっている。よって本意は『都に置いてきた妻を思い感じる、遠い旅路の哀切』となる。詠み人の業平には珍しい技巧満載の歌だが、伊勢物語(第九段)を見ると「かきつばたといふ五文字を句の上にすゑて、旅の心をよめ」とあり、友人のムチャぶりに、期待以上の出来栄えで返したことがわかる。

(日めくりめく一首)

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