ML玉葉集 春中(令和二年三月)

令和和歌所では、ML(メーリングリスト)で歌の交流をしています。花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠み交わしています。参加・退会は自由、どうぞお気軽にご参加ください。

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今月のピックアップ五首

「いにしへの人も上がりし沖津潟古かたりせよ春のさむ風」
「家々の懐なべて寒からし野辺のかまどに立つ煙無し」
「四方の風邪みな鼻からとおもへどもなど買ひ占めす鼻は一つぞ」
「桃咲くもこころならずの春なれば歌こそ人の望みなりけれ」
「咳一つ人語車中に絶え果てゝ桜舞ふなり玻璃窓の外」

今月の詠歌一覧

いにしへの人も上がりし沖津潟古かたりせよ春のさむ風
新浜むかし語りのさざ波に思ひ寄せたる遠き舟人
春さるをしらぬあはゆき梅が枝にむつの花よすここのよの月
うちしのびむつの花さく梅が枝にこよひしづけく衣かへさむ
うちかへすころもにひそむあけのいろつっぱるこころここにやどして
つっぱれるこころもなにもゆるみゆきしづこころなくとしをおくらむ
人知れずうつろふ花を惜しむとて羽白妙の鳥や鳴くなる
花散りてもの悲しきに鶯の来鳴きとよもすうれしからずや
古の人も恋ふらむ沖津潟裳裾ぬらしそ妹遊ぶらむ
時きたるとく目覚ませと木の芽風枝先に萌ゆ青芽は揺れて
すべりおつ玉水ごとに青は増すうたた寝る木を雨は起こして
ひとめ絶ゆ学びの庭の桜木に変わらぬ春を伝えし若芽
わが恋はみゆき隠れの草なれや春陽を浴びて色めきにけり
咲く花を停める春もあらじとは知れど人蹤樹下に絶ゆれば
さきつよをみむとて訪はゞ雲雀かな汝見し世々を語れこの楠
樹下人蹤滅,階上門重掩。應是花開時,寒風籠月華。
声聞かで眠り続ける土の虫草もゆる野に訪れは絶え
戸を開けば独り占めの野に驚けり去年と変わらぬ香りはすれど
葦原に陸奥さして下野に渡良瀬給へ雲雀あがれば
願わくばコロナウイルス消えななむこの如月の望月のころ
金色のコロナ飲みませ望月も絞るライムに朧かな
花のころ名のみと春は添ひかねて声だに鎮む四方の営み
時は今花の盛りのころなれど虚しさまさる木の下の影
春くれば花より穴を眺めつるあやしき者や虫愛づる姫
土の戸を開けて出るかな烏毛虫のまゆにまぎるる君ぞ愛しき
家々の懐なべて寒からし野辺のかまどに立つ煙無し
憂き言の葉を受け止めし木の下にけふ九重の年ぞ降りぬる
春くれど未だ心は晴れやらでただ九重の雲ぞ隔つる
歌繁み和する人ある夢心地午後の勤めも豊けからまし
九重に雲と隔てど十の炎ひとひの潮引かぬ日ぞなし
かなしみのいはほとなりてのこりなばこがれつゝなほ春はくるしき
雛仕舞い遅れがちなる我が家かなころなゆえにとむべも言ひけり
今日や我明日は家族か知らでども笑ふ我が家にころなよくらむ
買い置きすマスクの数も減り続け十といひつゝ残り二枚ぢや
春なのに絶へてますくのなかりせばおやぢのくしゃみおほふ術なし
四方の風邪みな鼻からとおもへどもなど買ひ占めす鼻は一つぞ
みわたせば向かい三人両隣みなしろたへの間空くなるかな
かみすぎて紙もつきぬと白妙のマスク干すてふ路地の春かな
づくにや君は行くらむあしひきの山転げ落つ日経平均
いざ並ばん並ばねばならぬ何事も並ぶは人が並ぶからだよ!
東風吹きて匂ひ起こせし梅の花時ぞ過ぐるところな広めそ
久方のころなに心砕くとも知恵の緒きらり卒業の子ら
花笑みも咲かぬ春野に咲ける桃かわらぬ春の訪れをしる
春苑に香りはみつる桃乙女標とならんまだ来ぬ人の
君がためたおりておくる桃の枝災ひはらうまもりとやせぬ
桃咲くもこころならずの春なれば歌こそ人の望みなりけれ
憂きとのみ語り継がるる春ならばせめてもの歌言伝にせむ
しずこころなければ春野に咲く花をながめて今日は過ぎにけらしも
吹きとじぬ香りを連れて久方の花より空に過ぎぬ春風
桃色に火照るや頬に沫雪のはだれにかゝる春は閑けき
春立つを重ねて告げし空の梅天を仰ぎぬ悲しむ人(と)らも
侘びぬれば幾日も人に行き会はで籠もる板屋に沫雪ぞ降る
消ぬる間に訪はんとすれど春籠り板屋の軒に降れる沫雪
来し方の六十年の長さかな世にも人にも消せぬ縁あり
水糸をはるも矩割る相模野に今年の地図を描きてみるかな
伊豆箱根丹澤秩父奥武蔵那須筑波嶺も朝の陽だまり
梅の花ありとや吹きも寄する風に吉野ゝ山をゝしへてし哉
古むしやの首も殘れりさくらばなぬくきさむきとゝまどふ春哉
あたらしき真白のころも仕立てぬるみなににみせばや畑の蝶々
吹く風にのこるかほりを羽根にのせうつるときをば継ぎてゆかばや
若き菜にとどまりたれる花かけら飛び立ちにける春風にのり
あな白や白き羽かな我にたべ得つれば汝を訪ひてゆかんに
羽にのせる香にこそあれば継ぎて来しかたも顕に見ゆる高空
てふてふに尋へど菜の花たゞ揺れて沖津白浪たてるばかりも
こころなく春をおほひて凍てしあさ花のしろきになぞゆきやふる
春雨やいまだきこえぬうぐひすのさよなくこゑをしたまちてなむ
来ぬ人をろくに松とも無き身かな焼かぬ藻塩に目も小慣れつつ
これやこのひくもうつすもわかれては陽とも陰ともたまさかの咳
目にも見て音にも聞きかばともかくも僻目にや花のさかりなりけり
咲く花に隠れて呼ぶやゆく人を惑うさまをば楽しむ如く
菜の花を積みてかへるか雀の子鈴なりで笑む春の若枝に
いつしかとふるあわゆきをすくひつつとぶらふひとをまちわびぬかな
はなみてもこぞみしひとのかげはなしをしむをしらずふゞく春かな
世が世なら国中の僧侶をかき集めて加持祈祷のレベルかと。
秋来れば集ふ手筈の神無月ころな出雲と思ひとどまれ
きりぎりす鳴くさむしろは無けれどもころなころなと人ぞ鳴くなる
物の名に既に籠めしか友則のしづこころなく花の散るとは
咳一つ人語車中に絶え果てゝ桜舞ふなり玻璃窓の外
春籠りすとはなけれど泣く子らの守はいづらや木のもとの母
頬かぶりとらば刹那の春の香や花も夜道の風を含みて
テレビジヨンあふりあふられ列つくり人には告げよ買い占めすなと
かみなくていかにこの身も渡らむやはなは散るとも落とす瀬もなし
いかならむ問ふも不審の高島屋甲斐なき海のみるも稀なり
近江に海藻なしとおもへど なきにしもあらず淡水藻と申すとかや
忘れじの心いずこに行くらむと我が衣手に積む涙花
ふたたびの春立つ願ふ空の梅重ねて咲けり盛りの花と
いますこし枝にとどめん桜花代わりに降るや春の淡雪
世の中を吹きても閉じよ降る雪で明日白妙に染めてこそみめ
遅雪のさりとて積もる夕暮に音のかそけき群竹の奥
白妙の雲より流れ散りながらこほれる花に淡雪の訪ふ
ひさかたの天よりそよと降る雪をあけぬ窓よりうち眺むかな
櫻花慣らはぬ雪を恨むなよ散るを惜しとて留むものかな
人咲かす翁も灰の雲居より散りくる見れば華は榮りて
高々し髷の貴人は空駆ける行き交う人等に笑みを咲かせて
たかたかの髷の貴人のゆく春は花も盛りと咲くとこそきけ
みやのかわ今や盛りと木の葉なのまいしみすがた神やかがふる

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