ML玉葉集 夏上(令和二年五月)

令和和歌所では、ML(メーリングリスト)で歌の交流をしています。花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠み交わしています。参加・退会は自由、どうぞお気軽にご参加ください。

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今月のピックアップ五首

霞ゆく櫂の滴のとほとねも軒端に垂れる夏安居の夜
べにはなを頬に宿せる乙女らの花笑みかさね夏は来にける
出遅れて袂かざしの袖笠を頼みて帰る村雨の道
密になりまた粗になりて世の中は夏松原に寄せる潮騒
その人は珠にもゐたしこゝろ音を拾ってくれる..言ノ葉っぱを

今月の詠歌一覧

いま夏を何をよすがに永らふや心を一つ寄するばかりぞ
面覆ひおほへばこれぞ隠れ蓑外せば見ゆる憂き世なるかな
風薫り藤花のありと知らるれど関閉じ花の独り揺れるや
目にも綾群れ咲く花のあればこそ折句の主のおらぬぞいたわし
何あれど夏日になればせいろ蕎麦初モノなるぞ季節はめぐる
あの夏も待ちてありしか破れ鍔に解くこと遠ほき夏の中空
憂しことの多き世もまた人の世と笑う嫗の面(おもて)眺めつ
笛の音も囃子の聲も消え果てゝろうじの陰に花旋風去り
花去りて緑の嵐近からむ葉叢騒ぎて又三郎が咲ふ
見る人もなきと花々ひとりじめ又三郎は躑躅抱えて
天つ野の香りやみつる上野杜垣の向こうの姿を思ひ
顔色(がんしょく)もなくなる心地春の花貴妃と並ぶる花が咲ければ
花王と獅子が織りなす春の舞この世の憂いを飛ばすがごとく
夏袖の衣は色を付けかへて風さへそよぐ軒の華やぎ
まだ夏は一つ所に留まらでまづ差し戻す今朝の白妙
閏四月の風待てば初夏の命ぞながゝらむ
越の山路も目に青葉さゝ蟹かくす糸の水
ことしは解くる雪なくて山に姫筍摘む人は
板倉の辺に花見れどかへりみしてはかなしやと
羽のばす時し近しと明日聞かば今ふたたびの卯月なるかな
夏花の咲くを重ねる桜花喜びまさる皐月空かな
五月雨や水面に描く玉模様蛙の声もなお響きけり
わが妹と呼ばう声をや響きける雨に水増す田の傍らに
あくぶりてただ佇みぬ葉の上に皐月の雨はただ降りそそぎ
悪ぶりてさつきの雨にゆく君もゆるしてけふは只に帰へりね
あやめ吹くゆたにたゆたふ雨安居にものわすれせで香こそしるけれ
人の世の長きをいつかかこてどもあやめたゆたふ雨安居の夢
こしかたもゆたにたゆたひうたたねばわすれつつなほ香こそしるけれ
はかりなき遠音(とほとね)かすみゆく船になほ待ち侘びて日長くなりぬ
新夜梅雨後碧空月華靜古今多少人共看皆如此
早苗植う涼しき色のこの頃にあはれとや言はむかなしとや言はむ
江都一片月萬里其々情四方多少人共看皆如此
若草の香と雨の香のまじりたる匂ひぞ春のしるしなりける
花びらの踏まれぬままに散りてあり見えざるうちに葉櫻となり
足音のせざる道をし覆ふごと飛びちがひたるとりどりのこゑ
一隅をてらしゐでしき月影の硝子戸滑り密みかに触るゝ
春雨の音ね寒く聞きしなへこゝろと云へる星ノ音する
聲はせで身をのみ焦がす春星にかさぬ螢の光りとどけば
霞ゆく櫂の滴のとほとねも軒端に垂れる夏安居の夜
虫の音もまだきにあれば囀りす鳥の音ばかり雨安居ゆたに
雨の日は香焚くべしと定め来し手際冴えたる垂乳根の母
春秋の花の盛りも散り際も訳知る母は庭の関守
軒先の移ろふ日差し知り尽くし乾くるほどに衣干す母
軒端に並びて聴きし守りの知恵盛りをむかう花は揺れつつ
然なめりと夜のあくるまに風吹きてまどひたちきぬ踏ノ蒼草
いますこしやさしくおどろかしたまへとうらみ言ふなり耕す人に
雲行きを仰ぎて見るは土の龍家路を急ぐ雨は近しと
杖つかで朝の露霜踏み分けて三日も空けぬ母の買い出し
御幸待つ小倉百首を尋ぬれば今ひとたびとと母事も無げ
もの思ふよわりはてぬる夏の日になぐさめつゝも道半ば哉
出遅れて袂かざしの袖笠を頼みて帰る村雨の道
雨ごとに色の千種を増す緑濃くも淡くも夏は来にけり
さらさらと笹の葉ゆらす五月風ほの立つ土の香をもはこびて
去年よりも幾節伸びし竹林風も光もいよやわらかく
うぶすなの杜に柏手響きけり心合わせし八坂の人等と
音無しの言はぬ思ひの竹群にさりとて生ふる夏はたかうな
つちのかもはこぶやいづこきみがゝたさつきのかぜにわれもならまし
節ごとに長けゆくかたの夏空に笹の葉揺れて光長閑けき
節数をかさねしごとにやさしきは皐月吹く風君が歌振り
益もなき自粛の咎はたれたれぞ益なき問と知れどくやしき
靑嵐に騒ぐ葉叢の浅くしてたそ靜づけやし昼顔の君
天地をつくりし主の花贈ぶはうた詠む子らのいらへ待つとや
天地をつくりたまひて花贈ぶはうた詠む子らのいらへ待つとや
かみながらそのひさかたのひかりみつひごとのあさはめでためでたや
絽の翳に看えぬ胸裏の淋しさも暮るれば是を如何に留めむ
軒端に飛び出し見れば五月晴れ聞きてまごうは桑を食む音
嬉しもの大きくなりし御蚕や雨降る中に向かふ桑畑
今歌に何を込めるか詠み惑ひまづ跪く西行の前
道はるか今幾許ののぼり下りつゆも厭はぬこの遠回り
憂の月も山の端入りてふたゝびの卯の花見むと願ふ雨かな
世の中を何にたとへん池に落つ一つ滴の波の紋かな
密にせぬ隣の梢の伸び代と差し出づる枝の広き中空
世の中を何にたとへむ五月雨の縞重ねゆく池の面かな
密になりまた粗になりて世の中は夏松原に寄せる潮騒
パパイヤも陽にありぬと聞かしかば疾う隔離せよバナナはどうぢゃ
春のこす簾(たてす)のあひのこ隠れにかそけき聲の影や青しき
愛しきやしそのまなざしに火影ゆれ汝が吹く息に帳もおりぬ
食國は呪言ぎすれば神ながら常世の歌とあらはれたまふ
道奥や雪けまさりてちさ乃花白く散りしききと夏なりぬ
車なきこの世はすがし鳥たちのこゑすきとほるあかときのかぜ
春雨のつぐなひするや青空に緑豆煮つゝ明けや待たれる
黄昏の陽も限りゆき朝越えの坂鳥やすむ私のしゞま
夏山におろすとばりの深ければ天下ひらけど帰へるに如かず
うつつとも見えざる明けの不如帰汝がなく声に夢も覚めなむ
花仕舞い紅葉も遠き我が屋戸の何散らすとやこの止まぬ雨
目覚めれば雲敷き渡る空ながら花近からし庭のあじさい
神ながら深き心の謐けさを汀にきゆる波に見るかな
大丈夫そのひとことのやすけさよ
花摘みに紅を重ねる指先の深く染むるはわが思ひかな
望むればいかなる色も出でにけるさくらくれない主(ぬし)のまにまに
べにはなを頬に宿せる乙女らの花笑みかさね夏は来にける
花笑みす乙女の植える早苗舞田の面の夏に紅を重ねて
田の面には富士八ヶ岳置く早苗泥足踏み抜く夏の蒼穹
泥田踏む素足の足の指先にみみずあめんぼたがめのおどり
花まつる歌は霞に消ゑ入るも偲ぶ一音を奏でよらしも
繰るごとに火のゐろもゆる實鬘うつろふからに濃くなりにけり
實鬘ときなればこそゐろをきて生ふる日蔭に姿かはらず
とや春ひさゆる汀のあらすさび沙月にゐひぬ君を歌へな
あまぎらふさつき二十日のみちもせにほとり見ぬまゝ鳰ノ浮き巣と
あをみどむ皐月しのにの日に暮らす濃くも淺くもしずく身なれば
誰そ彼瀬にたつ影をかさねしもおもひに薄きなさけあさしき
青艸におもひたのみて實かつらひとひの風に霞みたなびく
小余綾のはつるとまりのたゆたひに布ほさるれば舫ひ解くらむ
晝ひなかふちせに手向く一陣のさなゑのかほる野駆けさやけし
行き暮れて咲けるさかりは道奥の人にしられぬ雪ノすゞ鳴る
ゐつはとは時はわかねど問ふことの漕ぎぬく果てに野茉莉(ゑごのき)は咲く
あさなけに見べし花とてしき吹けばさゝらと散るは山ぢさの雪
知ればまたわかつかほりも跡見(とみ)やすく並びて君の笑まひをつらむ
その人は珠にもゐたしこゝろ音を拾ってくれる..言ノ葉っぱを
わがごとくわれを思はむ言ノ葉に心澄ましつ想ひそふらむ
羽やすむその時折に吹く風にあさきみどりもゐのち青ます
こゝろざし深く染めてし萵苣の木を植ゑし植ゑればさ庭風たつ
雨晴れて露けきさまも風かろくさゆらぎやまぬ苣ノ葉の色
あおによし水の回廊めぐるときわきてながるる水の緒恋し
ひさかたの星のまたたく初夏の夜につゆに濡れたる草笛を吹く
ちはやぶる天の浮舟浮かぶときあなたこなたと光りあれかし
あしひきのならやま越えて雉鳴けば恋しさつのる想いかみしめ
魂の緒が天より下るみかのはらわきてながるる生命愛しや
つつじ咲き燃え上がるよに皐月咲き飛び立つ小羽の三つ葉ツツジよ
五月闇かがり火のよに皐月燃え咲き乱れ咲く五月雨の夜
見上げれば青葉の梢木の間よりきらめく初夏の夏空見えし
長雨のしとしと聞こゆ雨音に抱かれて眠る時の幸せ
赤き日がははその杜に沈むとき無名戦士の雄たけび聞こゆ

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