ML玉葉集 夏下(令和二年七月)

令和和歌所では、ML(メーリングリスト)で歌の交流をしています。花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠み交わしています。参加・退会は自由、どうぞお気軽にご参加ください。

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今月のピックアップ五首

見せばやな身よりあまれる蛍火のたぐひ知られぬ胸の煙を
おなじくはあやめの軒にやすらはむ濡るともうれし雨のうつり香
おもたれて翳にやすらふ虫の音に笑みひらけたる夏の容花
いにしへのこひぢと思へばはちす葉に玉散る雨のむつましきかな
ちはやぶる神代のさそり夏さればからくれなゐに星も染めつつ

今月の詠歌一覧

むすびてはしづくにのきのしのぶ草あふるるほどにさみだれもせむ
綾目なし膚を傅ふ五月雨に霞む江都は離りゆくかな
面白や下戸の深酒呑兵衛のノンアルコールアテに善哉
袖にうつる心の外の青もみぢみどりひまなき五月雨のころ
五月闇くらきを照らすさかづきのめぐらぬ夜半ぞ寂しかりける
軒近き庭のむらさき目もあやにそぼ降るほどぞ今盛りなる
コノハズク仏法僧鳴き経を詠むありがたきかな盂蘭盆会の夜
五月雨に青き焔の隊列は剣たずさえ空仰ぐなり
久方の晴れ間短き日和とて軒端に余る衣干したり
揚羽舞ふ庭に影さす午後は来晴るるともなき梅雨の束の間
難波橋川風涼し大川はビルの灯りが煌めく夜は
下燃えの蛍数添ふ岸なればいずれを君と見知るものかは
田植歌絶えし青田にただ響く労ねぎらいし半夏雨音
そに告げる言の葉足りず蛍火の身を焦がしてや道を来るらむ
五月雨の名残りは尽きぬ水無しの岸に蛍は棲まはぬものを
そここであま水求め恋蛍一夜かぎりの命はかなし
難波橋川風涼し大川にビルの灯りがきらめく夜は
半夏生タコ茹で越える梅雨疲れしのつく雨を聞きつつ食らう
思ひやれみなつきはてむ今宵しもひとりこがれてきしの蛍を
いかが我立つ煙無き蛍火を焦がるるものと頼むものかは
との曇る午後のすさびに詠みかへし肝冷やす汗乾く間もなし
見せばやな身よりあまれる蛍火のたぐひ知られぬ胸の煙を
つごもりの君が袂にあひそひて東雲にはつ蛍火なれば
かたしけどきみがたもとのほたるびを見えでまさるとしのびてたへむ
かく言ふは野洲の河原の蛍火と聞こゆるほどに冴ゆるあだ燃え
先達の跡見失ふ風待ちに助け舟あり梶のまにまに
天の川やすの河原の蛍火は七夕にこそ逢ふべかりけれ
ともしびのよるのみ燃ゆる思ひかはこころを見する蛍火もがな
七夕にカササギ橋がかかるよに一夜かぎりの恋蛍かな
五月雨を集めて深し天の川晴るれどついぞ渡る瀬も無し
天の川渡る淵瀬は知らねども星にまがへて行く蛍かな
雨分けて吹く初夏の小夜嵐音ぞ隔つる窓のうち外
石走る垂水に軒は洗はれて溢るるほどぞ庭の滝つぼ
とどろきの豪雨来たれり神風かなにげな日々に幸せ感ず
つねあるをねがふこゝろのたへざるにしゃじくのあめのうちなたまひそ
あめつちよしずまりたまへとうたをよむあめたたきつくあらはえのよる
白南風は雨雲を連れて去りゆきぬ夏の光は雲間よりさし
五斗喰いの風にしかめて水面見る船繋ぎ止め光を待ちぬ
今こむと船の渡しで待ちわびる岸の向こうは雨で見えねど
恨みわびただ眺めしは雨の河釵の一股もありぬ身なれば
伝へ聞く筑紫の雨は衰へで案じて祈る生きの松原
先達の雨止める歌取り出して天の川堰閉じてこそみめ
七夕を暦違へに言問へば時にあらずと天の川長
叢雲に涙は尽きぬすべのなき瀬に立ち願ふ波よ安かれ
信濃路に雨の便りは移ろひて案ずるばかり今朝の雲行き
名にし負ふ不破の関さへ吹き破りいかがと案ず木曽の架け橋
暫くはうたよむ心も擲ちて只雨垂れのねとはなりなむ
祈るより水せきとめよ天の河これも三島の神のめぐみに
歳永く曽ぬ木の根の深ければふる里まもれ神のめぐみに
やまたかく谷の幽き信濃みち越ゆらむ今日そ雨な降りそね
碑(いしぶみ)に留めて代々に伝へけめ治まる水の禹の王の術
千早ぶる雨司る神々の目にも触れよと山盛りの歌
神代より過ぎたる雨は降りぬれど止めよと頼む我役不足
水治めたまひしひとも堰あへぬをとめの涙とゞむ斑竹
神ながら天も哥にて停めてむさりゆく時も人もいましも
雨止めと頼む我が歌徳を無みなほうちしめる竜王の息
過ぎたりと怪めむことは隠岐の島荒き波にも立ち慣れにけり
おなじくはあやめの軒にやすらはむ濡るともうれし雨のうつり香
名にし負ふ水無瀬の帝心あらば晴れよと明日に勅出し給へ
勅なれば露ぬき乱るささがにのいともかしこし雲ぞ晴れゆく
隠岐にあれば浦に折り焚く柴も無し苫屋にむせぶ海士の藻塩火
泣く涙乾く間も無き五月雨の尾張のつぼね偲ぶ形見に
返されてなほぞ嬉しき百草の身にも袖にも余る言の葉
石上布留の神杉立つほどに憂き身の丈に余る誉め過ぎ
遠島の帝悲しき島守は波風高き隠岐の白菊
梅雨去らで夏待ちの庭もてあまし遥かに安芸を思ふ雨脚
遠島の君のみかげを思ふより露もなみだもおきの白菊
いつまでもつゆ晴れやらぬながめにて雨はあきあき安芸のみ山べ
うたゝねのたまゆら結ぶ夢にだに五月雨やまぬ梅雨の空かな
ほととぎすこえふりたててなくやまにそまひととひてわれはきたれり
杣人のチンチン鈴のクマよけの音がこだます熊野古道よ
木のもとにやすらふ熊野の杣人の鋸目にかゝる夏の木漏れ日
推せば挽く挽かねば推さぬ杣人の鋸目に浮かぶ木目の漣
杣人の鈴も木霊の奥熊野鋸目あらはに挽きつ推しつゝ
高らかに響く花打つ鼓の音雨よろこびぬかわづにあわせ
蓮の葉にあまた露おく三日夜去りゆく花の涙なりける
み仏の国たびだてる心地する蓮葉にそそぐ酒いただけば
時は今アクエリアスへ漕ぎ出だせ風雨荒波時の女神よ
しの輪津の池にはちすのひらく音はことしもゆめにきくばかりかな
絶へもせで流るる雲は敷島を覆ふばかりの梅雨の居座り
夏までは間近とぞ見る葦垣になほぞ降り敷く音なしの雨
雪山の峰よりたちし蒸し雲の引くや黒潮千島はるけき
飯碗の欠片にうつる月かげをめづるよひなり叢雨ぞ降る
片欠けの欠片にかけし月影の盛ることかたき宵の雨かな
敷島や明治の御代の大君の立ち習志野のもののふの跡
指呼の間の習志野原に住むと聞く同じ雲より五月雨ぞ降る
大君の神代に習ひ名を賜べば朝霞解く習志野の原
おほきみのたぶなをよべばかむながらあさがすみとくならしのゝさと
竹林に響く竹の音神すさび朧月夜に虚無僧来る
まだ見ぬがヒマラヤ山の雪景色想い見上げるヒマラヤ杉
習志野に火玉降るらん盂蘭盆会御霊のりたる天の岩船
五月雨の雲の切れ間のお日様に天に顔上げ微笑む紫陽花
よもなくていかに呼ばうかほととぎすくれてはあける夏のしののめ
しののめに夏の夜の夢明けやらで茜眩しく夢うつつかな
歌詠めば吹け錚々の風の音に明暗諦む祝言の声
うれしやな喜多に金剛金春と下掛かりこそ謡神祝
若人の舞舞う姿気高くて囃す五人心の晴れる
ふるとしを忘るるまなく今年もや心に雨の小止みだにせぬ
はつかにもかけたるつきを見よとてか今朝はほのぼのあくる東雲
おもたれて翳にやすらふ虫の音に笑みひらけたる夏の容花
数打てば当たる弾さへあると聞き場数手数を頼みてぞ詠む
都辺の仮の宿りはいかならむわきても人の密避け給へ
わきわかぬことよりいさやひたぶるに読むこそよけれ玉の言の葉
家居せし魂送る夜は帰るさの道易かれと折りて焚く柴
いにしえの池のうき葉の白露は土に帰りてまた雨となる
片欠けの月の片割れいづちなる唐竹にます罪人の姫
米麦を蝗の尽しウイルスの流行るや神の清めなりける
恋をれば簾ぞ動くここちして起き出でてみれば蝉の一声
すず川に簾動かす風あればあふ目も難きうつしおみかな
容花に射し込む光きらめいて五月雨明けの夏はきたるか
顔覆う白き布にて地謡うたうカオナシ並ぶ舞台や怖し
いまの世もうすきぬかけてなつころもかげろふの身の長きを祈むかは
絶ゆ絶ゆと今こそ絶ゆと言い頃な六百余年を過ごしつるかな
和歌の浦はいと波繁くなりにけり降るともやまぬ交はす言の葉
降るほどに言の葉積もる和歌所返し返さる歌の営み
いづかたも音なふるかな歌の葉は片雲の風乗りてまいらむ
たいかいの浦波四たび打ち寄せて心砕くる和歌の寄人
夕さればよそのあふぎの風すぎてただいたづらになびく玉だれ
夏草のかりそめにだに思ひきや我がこしをれにかたのありとは
いにしへのこひぢと思へばはちす葉に玉散る雨のむつましきかな
神ながら受け継がれしや三島わざ水を操るヤタガラスかな
風荒び錚錚と鳴る竹の音は明暗分かず響きたるかも
月雪の時を待てども帰り来ず白妙わたす森の卯の花
うすあをきよひらに光のさすみればおもかげおとす冬の雪山
時やいつ雲居の空の晴れわたり夕日のごとくにほふもみぢば
この雨を憂しとばかりも嘆かじな降らねば虹も立たぬ理り
出無精の身にもあはれは知られけり踏みも見で詠め天の橋立
松が根に添え生う竹の友あれば吹き過ぐ風の鳴るは滝の水
あめつちの心動かす歌の風雨の雲居に夏日はさしぬ
けふもまた見そなはししか散りしける花をふみわけ帰る吾らを
波風は荒しとばかり伝へ聞く見にも参らむ隠岐の八十島
隠岐惑ふ白菊の花摘むとてや心宛てにぞ我海渡る
波風は荒してへどもおきの島新島守ぞまもるなりける
うつり香もうすくれなゐに匂ふかなあかぬ桜の花のまにまに
神代より大君の歌数あまた隠岐の帝に如く由もなし
いにしへの鎌倉武者の不躾を伏してぞ詫ぶる我は愛弟子
花か雲かとへどしら波たちかへりほのぼのかすむ沖つ島かげ
草露を川風ゆたに吹き抜けて落つる玉水立てる土の香
心をば空になせどもほととぎす雨の雲間の聲は届かず
卯の花の山越え来たるほととぎす白雲ばかり連れるものかは
風の音を郭公とぞ聞きなして後には白き卯の花の月
蓮池に夏日はさしぬ雲間から言向けやはせあめつちかぜよ
飛びくらべ誰が一番に雲の上巣立ちの時を子等は待ちける
夏空に描き出したる一文字習ひの型に鷹は飛びゆく
本歌をば気づかぬほどに恥入りて秘してぞ学ぶいにしへの書
いにしへの名立たる歌の草々を摘みてぞ暮らす老ひの春秋
ほととぎす過ぎぬる雲を吹く風になほ響きたるほととぎすかな
過ぐる跡を追ひてはれゆく村雲の月もさやかにほととぎす啼く
空白み月うすあをく残れるに過ぎにし鳥のなごりをぞ聞く
老ひぬとも気は和歌の浦波蹴立て六十路分け入る無垢の手習ひ
キーキッキと高く切り裂き天空を高く翔けるや鷹の兄弟
隠岐の海の風はさすがに心得て浦にて騒ぐ波ぞ稀なる
西の海の仮の宿りを訪ぬるに水無瀬の月を幣と手向けむ
さやかなる月は見ずとも時鳥五月の空にすみわたるかな
輝きたる星の姿は古ければ今発つ光いかに照らさん
ラジオつけ今日も出会えり良き歌に今のうちだと鳴く時鳥
君が袖を一振りすれば桜花あさの海へとふりそそぐらむ
平家に今まさる源氏の星月夜鎌倉の世に出でし光か
有明の月やうつると見えつるは泉にあそぶ桜なりけり
雪ならで花に隠るるわかなかななほ君がため摘まむとぞ思ふ
西海の果てにも泉有りと知る汲むほど冴ゆる隠岐の月影
愛国の心つたえる屈原の故事をつたえる粽なるかな
神ながら焼火の神をうやまいて今日も汽船の汽笛響けり
日の女神月の女神が舞のぼる光羽織りて雲の中へと
玉櫛笥藐姑射の山の片陰に寄り添ふ我ぞ二心無き
歌を得て我行く水の魚なりや百瀬の滝をいつか昇らむ
ほの見ゆる若菜摘みつゝ衣手に花の白雪降りみ降らずみ
神代より来ぬ夜あまたのほととぎす待つこそ人の望みなりけれ
鳴く鳴かぬしかれど月はただ残り隔ても知らぬ有明の主
天の川魚釣り星に赤星がキラリ煌めく夏の夜空よ
夏風に梢さきにはきりかかり何処にゆくや子らは飛びたち
すがたをもかほりさえをもおかずして花ひとひらを袖にのこしつ
いと高き梢の御簾におはします垣間見たしや咲けるかの人
ちはやぶる神代のさそり夏さればからくれなゐに星も染めつつ
桐植えて嫁入り待つや雛の家高き梢の殿を待つらん
梢より垣間見し花連れ立ちて母と見るらむ旅立ちのとき
末の世もすでに過ぎにし御代とてかむべ雨風の立ち騒ぐらむ
薄明けの朝やそれとも分かぬ間にふりさけみれば空閉ざす雲
功徳無き身をば知りつつ歌詠めばうはの空にぞ雲立ち込める
夏の門(と)をあけて飛びこむ白鷺や競べに勝り時を告げなむ
誰そ彼と叫ぶ世界の夕まぐれやがてあかるきひを迎へつつ
きらめきて海風渡る夏の海松帆の浦のせせらぎ涼し
松帆浦コロコロ鳴るやせせらぎが玉石早瀬万葉の浜
夕暮れに満ちては返す松帆浦早瀬の音に想いつのりて
雲居敷く梅雨のはたては白鷺の谷津の干潟に波の寄る見ゆ
うちしめる浜の朝霧やや晴れて夏を知らする白鷺の空
あしびきのやまとの歌の道険し花月見つつ行くが楽しさ

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