和歌の入門教室 「倒置法」

語や文節を普通の順序とは逆にする表現です、「倒置法」とは。
と、このように使います。

あまり意識していないかもしれませんが、本来日本語の普通の語順とは、主語、目的語、動詞(SOV)と並ぶのが基本です。「私は、歌を詠む」というのが通常の語順。これをあえて崩すのが倒置法なのです。

例えば、「歌を詠む、私は(OVS)」とか「私は詠む、歌を(SVO)」という感じですね。すると、あら不思議! 最後の語句が強調されて聞こえますよね。三十一文字の韻文たる和歌では、韻律を整える上でも、倒置法がよく使われます。

例えば…

315「山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人めも草も かれぬと思へは」(源宗于)
普通の語順は「人めも草も かれぬと思へは 山里は 冬ぞさびしさ まさりける」となります。

909「誰をかも しる人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに」(藤原興風)
こちらは「高砂の 松も昔の 友ならなくに 誰をかも しる人にせむ」が通常の語順。

結句が文の途中で終わっている場合、その歌は倒置されていることになります。文の途中、つまり文末でないか否かは、文末の活用形で判断します。基本的に文末の活用形は「終止形」(および命令形)です。また終助詞(なむ、ばや、な、かな、もがなが使われる場合もあります。ただ係り結びで文末が変化している場合もありますし、係助詞・間投助詞( や、か、よなど文の途中でも末で使われるような助詞が使われることもありますから、そのような場合は文脈で判断してください。

では百人一首歌の実例で、文末の処理=倒置の箇所を探ってみましょう。

14「陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし/われならなくに」(河原左大臣)
17「ちはやぶる 神代も聞かず/竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」(在原業平朝臣)
23「月見れば ちぢにものこそ 悲しけれ/わが身一つの 秋にはあらねど」(大江千里)
28「山里は 冬ぞさびしさ まさりける/人目も草も かれぬと思へば」(源宗于朝臣)
29「心あてに 折らばや折らむ/初霜の 置きまどはせる 白菊の花」(凡河内躬恒)
34「誰をかも 知る人にせむ/高砂の 松も昔の 友ならなくに」(藤原興風)
40「しのぶれど 色に出でにけり/わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで」(平兼盛)
42「契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは」(清原元輔)
51「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな/燃ゆる思ひを」(藤原実方朝臣)
60「大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず/天の橋立」(小式部内侍)
78「淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に いく夜寝覚めぬ/須磨の関守」(源兼昌)
95「おほけなく うき世の民に おほふかな/わが立つ杣に 墨染の袖」(前大僧正慈円)
99「人も惜し 人も恨めし/あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は」(後鳥羽院)

(書き手:歌僧 内田圓学)

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