夕凪にとわたる千鳥浪まより見ゆる小島の雲に消えぬる(徳大寺実定)

藤原定頼※1に藤原顕輔※2、百人一首でも純風景歌の名手は存在感が薄い。今日の徳大寺実定もその一人だろう。百人一首歌※3では鳥の声の名残にぽつねんと浮かぶ有明の月を捉えた。今日の歌も趣向は似て夕凪の時分、浪間の千鳥が小島の雲に仄々と消える様を詠む。如何だろう、京極派を先取りしたような繊細優美な歌風、抜群の一首ではないか。しかしこれら風景歌は読み飛ばされ、某百首も恋歌ばかりがもてはやされるのは、偏に現代日本人の風景再生力が極めて欠落したためだ。

※1「朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木」(藤原定頼)
※2「秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ」(藤原顕輔)
※3「ほととぎす鳴きつる方を眺むればただ有明の月ぞ残れる」(徳大寺実定)

(日めくりめく一首)

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