嘆きつつ今年も暮れぬ露の命生けるばかりを思ひ出にして(俊恵)

これまで鑑賞したどれよりも、俊恵の歳暮は退廃的だ。命を置いたそばから消えゆく朝露に譬える、和歌の常套句であるが、今日の歌には譬喩が譬喩でない実感を伴う。それは生とは瞬間の連続でしかないという無常の本質に達しているからだ。人は人生を積み重ねてゆくものと考え、いわば道を歩むように捉える、であるからその足跡たる過去を振り返ることもするのだが、はたして本当にそうだろうか? あなたが心に残す思い出は、本当にあったと確信できるのか? 否! あなたが生きている証は、それを自問する一瞬にしか確信し得ない、過去の思い出などまさに露のごとく現れては消える幻だったのだ。それでもなお人は、俊恵は、刹那の思い出にすがって悲しみに暮れる。

(日めくりめく一首)

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