木の間より漏りくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり(よみ人知らず)

春といえば桜、では秋といえば? もちろん「月」である。今でも中秋(旧暦八月十五日)の名月はもてはやされていて、この日はテレビなどでもやたら月見を話題にする。しかし現代人はお気楽なものだ、満月を一目眺めれば満足、秋を堪能した気になっている。平安歌人はまったく違う。『 木の葉から漏れてくる月の光を見ると、ああ気を揉んでしまう秋がやって来たなぁ』。月にお目にかかって、気が休まることのない「秋」がついに始まってしまうのだ。歌であるが、秋めいて枝から少しずつ落ち始めた木の葉、その間から月が顔を覗かせるという趣向になっている。数ある「詠み人知らず」でも白眉たる一首と言えよう。

(日めくりめく一首)

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