月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして(在原業平)

花は咲いた。軒端の梅は香りを揺らし道端には名も知らぬ草花がほほ笑んでいる。ゆかしき心にまかせ彷徨い歩けば、やがて立ち昇る朧月に足が止まる。どうしたことだろう、目に入る花鳥風月のすべてが変わって見える。『月はそして春は昔と同じでなくなった。私は何ひとつ変わらないのに…』。言うまでもない、変わったのは月でも春でもなくあなた自身だ! 折々の和歌に心を重ね続けたことで、自然風景と対峙する気構えがようやく育ったのだ。これを得られたとしたら、風狂なことを三百六十五日続けた私も報われる。
さて今日の歌、曲解となり業平には申し訳ないが、芭蕉※はきっと喜んでいると思う。

※「見る処花にあらずといふ事なし。思ふ所月にあらずといふ事なし」(笈の小文)

(日めくりめく一首)

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