昨日は典型的な鹿の歌をご紹介した。その上で和歌の類型化に対して、古の歌人がいかに挑んだかをご覧に入れよう、俊恵である。『嵐吹く葛一面の野原で鳴く鹿は、葛の葉裏を見たかのように、恨みながらも妻を恋続けているのだろうか』。分かりづらいがルールは守っている、きっちりと鹿は孤独に妻を恋いて鳴いているのだから。難しさの要因は「葛の葉」。これは牡鹿の心情「恨み」を言いたいがために掛詞の「裏見」から逆算して用いられているのだが、本来「恨み」を言うのに「葛」なんてのは全く不要である。しかし! 秋の情景をより秋らしく飾るために俊恵は選んだ。和歌とは難儀な文芸であるが、この面白さに気づくと病みつきになる。
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