ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ(紀友則)

桜の和歌というと、まずこの歌を思い浮かべる人も多いのではなかろうか。百人一首にも採られ中学校の教科書にも載る紀友則のいや和歌の代表歌だ。「穏やかで長閑な春の日」と「慌てるように散ってゆく桜」、この対比が見事に詩情を生み出している。古今集の採用歌だが素直にこころに沁みてくる。
友則は貫之と従兄弟の関係、自身も古今和歌集撰者の一人であった。他のメンバーに比べ年齢が一段上なものだから、実質的なリーダーであったと目される。しかし、彼は集の完成を見る前にあえなく散ってしまった。「しづこころなく」は残された者たちの嘆きであったかもしれない。古今集には選者らの哀傷歌※が残る。

※紀友則が身まかりにける時よめる
「明日知らぬわが身と思へどくれぬまの今日は人こそ悲しかりけれ」(紀貫之)
「時しもあれ秋やは人のわかるべきあるを見るだに恋しきものを」(壬生 忠岑)

(日めくりめく一首)

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