現代の詠み人が知っておきたい! 意味が変わってしまった文語10選


いきなりですがみなさん、歌を詠みましょう!

紀貫之は古今和歌集の冒頭、仮名序でこう話しています。

「花に鳴くうぐひす、水に住むかはづの声を聞けば、生きとし生けるものいづれか歌をよまざりける」
古今和歌集(仮名序)

生きとし生けるもの、歌を詠まないものはありません。
むしろ歌を詠むことが自然であり、もしあなたが日常にストレスを抱えているとしたら、それは歌を詠まないという不自然が原因かもしれませんよ。

なんて少々大げさな話をしてしまいましたが、和歌所では「歌会・和歌教室」を開催し、日常から歌を詠むことをお勧めしています。
ただしそれは短歌ではありません、俳句まして川柳でもない。そう、もちろん伝統的な「和歌」です!
→関連記事「和歌と短歌の違い
歌会ご参加者様の詠歌
講師(和歌DJうっちー)の詠歌WEB歌会あさぎいろ

和歌というからには、当然「文語」による表現が求められます。
文語なんて古典文法がニガテだから絶対無理!! というご意見もあるかもしれませんね。
しかし思い切って挑戦してみると、歌のリズムで文法が繋がる感じで、文語であることをそれほど意識することはありません。

しかるに学生時代の古典授業が難しかったのは、あれが暗記力を多分に求められる科目だったからです。
片手に古語辞典さえあれば、詠歌に文法なんぞ恐れるに足りず! です。

とはいえ、文語による詠歌には厄介ごともあります。それが「現代語と意味が違う単語」の存在です。
中には意味が真逆のような単語もあり、使いどころ次第では歌の内容が破たんする恐れだってあります。
意識が薄い分うっかり使ってしまうこともあるので、文法より実はこれらの方が怖いですね。

というこうとで、今回は
「現代の詠み人が知っておきたい! 意味が変わってしまった文語10選」をご紹介しましょう。

その一『あさまし』

・品詞:形容詞
・意味:驚きあきれる、見苦しい
・歌例:「雲はれぬ 浅間の山の あさましや 人の心を 見てこそやまめ」(平中興)
「浅間の山」から同音反復で繋がる「あさまし」ですが、これは現代語の「いやしい」ではありません。
「雲が晴れなくて見苦しいなあ」という歌になります。

その二『おどろく』

・品詞:動詞
・意味:気づかされる
・歌例:「秋きぬと 目にはさやかに 見えねども 風のおとにぞ おとろかれぬる」(藤原敏行)
現代語だと「秋風の音にちょービビった」という感じになってしまいますが、
正しくは「秋が来たんだなぁ」としみじみと感じ入る歌になります。

その三『かなし』

・品詞:形容詞
・意味:心惹かれる、いとしい
・歌例:「世の中は 常にもがもな 渚こぐ あまの小舟の 綱手かなしも」(源実朝)
実朝の有名な百人一首歌、歌の「かなし」は「心が惹かれる」という意味です。これを今の「悲しい」とすると意味薄弱となってしまいます。とはいえ渚を漕いでゆく漁師の小舟に引き綱をつけて引くさまに惹かれて、この世の常なるを願うのは、実朝という人間の個性というよりほかなりません。

その四『やすらふ』

・品詞:動詞
・意味:ためらう
・歌例:「やすらはで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの 月を見しかな」(赤染衛門)
現代語の「休憩しないで寝たのになぁ」では全く意味が分かりませんね。
正しくは「ためらわないで寝てしまったのになぁ」、来ると言いながら結局来なかった男への憤まんやるかたない歌です。

その五『やがて』

・品詞:副詞
・意味:そのまま
・歌例:「ひとりみる 池のこほりに すむ月の やがて袖にも 移りぬるかな」(藤原俊成)
現代語のだと「池」から「袖」の視点移動の時間経過がゆっくりになってしまいますが、
正しくは「ふと目を落としたら袖にも月が落ちていた」という感じです。

その六『にほひ』

・品詞:名詞
・意味:美しい色合い
・歌例:「色かはる 秋の菊をば 一年(ひととせ)に ふたたび匂ふ 花とこそ見れ」(よみ人知らず)
菊は変色の様が愛でられ、この歌ではそれを一年に二度「匂ふ」花と称えています。
嗅覚だけでなく、全体から溢れ出る美しさ表現したのが「にほひ」という言葉なのですね。

その七『やさし』

・品詞:形容詞
・意味:恥ずかしい、優美だ
・歌例:「芝の庵に とくとく梅の 匂ひきて やさしき方も ある霞かな」(西行)
「優し」はうっかり間違って使ってしまう文語ナンバーワンかもしれません。
まあよく考えたら「思いやりがある霞」なんてありえないですけどね。

その八『ここら、そこら』

・品詞:副詞
・意味:たくさん
・歌例:「もみぢ葉の 散りてつもれる 我が宿に 誰をまつ虫 ここら鳴くらむ」(よみ人知らず)
現代語だと「この辺、あの辺」と足元にしか世界が広がりませんが、
正しくは「辺りいっぱい松虫が鳴いている!!」って感じです。

その九『あやし』

・品詞:形容詞
・意味:不思議だ
・歌例:「いつとても 恋しからずは あらねども 秋の夕べは あやしかりけり」(よみ人知らず)
「秋の夕べは不気味だ、、、」ではありませんよ! なんとなく恋しちゃってる「秋の夕べは不思議だなぁ」です。
うっかりすると歌の雰囲気が全く変わってしまいます。

その十『あはれなり』

・品詞:形容動詞
・意味:心にしみる趣がある
・歌例:「紫の ひともとゆゑに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見る」(よみ人知らず)
「あはれ」は和歌に限らず古典文学の頻出単語です。
もし古典文学にジメジメした湿っぽい印象をお持ちだとすれば、これらを現代語の「みじめ」で捉えているせいかもしれませんね。
本来古典は「なんかいいなぁ~」という感動で溢れてるんですから、もっと楽しい気分で鑑賞しましょう♪

さあ、これであなたも文語のうっかりミスはしないはず!
一緒に古典和歌を詠みましょう♪
→「歌会・和歌教室

(書き手:歌僧 内田圓学)

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