「初逢恋(はじめてあふこひ)」は、長く思い続けた人と初めて契りを結ぶことを内容としています。ここに恋は絶頂を迎えるのですが、和歌で花の盛りがほとんど詠まれないように、恋においてもはじめて結ばれた喜びを詠むというより、これまで「会えなかった・会ってくれなかった間の歎恨がようやく解消された」という心を詠まれることが多いです。
特長的な言葉は「結ぶ(むすぶ)」、「解く(とく)」でしょうか。現代的な感覚でいうと「結ぶ」は男女が「結ばれる」という意味になるかと思いますが、和歌では「閉じた心」を表し、それを「帯のかた結び」などと喩えます。よってそれが「解く=ほどける」ことが成就の表現になります。初めての逢瀬、帯・下紐が解ける… なんとも妖艶ですね!
それではよく知られる「初逢恋」の歌をご紹介しましょう。
『かげろふ日記』上
まめ文かよひかよひて、いかなる朝(あした)にかありけむ、
「ゆふぐれのながれくるまをまつほどになみだおほゐのかはとこそなれ」
かへし、
「おもふことおほゐのかはのゆふぐれはこころにもあらずなかれこそすれ」
※「ふゆぐれの」歌:兼家の歌。「ゆふぐれ」に「榑(くれ)」(丸太)が含まれており、「流れ」と「泣かれ」、「多(し)」と「大堰(川)」を掛ける。「榑」と「流れ」は大堰川の縁語。
※「おもふこと」歌:道綱母の返歌。兼家の歌の掛詞をそのまま用いる。
『堀河百首』(初遇恋)
「うき事をいかでしらせんと思ひしはあはぬ限の心なりけり」(国信)
「はりまがたうらみてのみぞ過ぎしかど今宵とまりぬあふの松原」(顕季)
※「うらみて」は「浦見て」と「恨みて」を掛ける
「むさし野に我がしめゆひし若草を結び初めつと人やしるらん」(仲実)
「あしの屋のしづはた帯のかた結び心やすくもうちとくるかな」(俊頼)
「みしま江の入えにおふるしら菅のしらぬ人をも逢ひみつるかな」(基俊)
「いかにしてうち解けぬらん夜と共にむすぼほれたる中の下紐」(肥後)
「つれなさに思ひこりずと歎きしをけさはうれしき心なりけり」(紀伊)
「いかにせん雪の下水打ちとけて名にながれなん事をこそ思へ」(河内)
『六百番歌合』(遇恋)
廿番 左持
「はてもなくゆくへもさらにしらざりし恋のかぎりはこよひなりけり」(有家)
右
「あけばまづあはぬものゆゑ君こふといさめし人にかくとしらせん」(中宮権大夫)
右申云、左歌、取本歌之外無指事、左申云、右歌露顕早速を営之外、恋心あさし
判云、ゆくへはてもしらざりけん恋の、今夜などかぎりならん事こそ、なごりなくきこえ侍れ、右歌、意趣も女のためいとをしくや侍るべからん、両方ともになごりなきににたり、持とすべし
廿一番 左勝
「菅薦(すがごも)の三編(みふ)にはわれも寝たれどもあふうれしさにしく物ぞなき」(兼宗)
右
「こひこひてあひ見るよはぞまさりける人のこころのしらまほしさに」(家隆)
左右ともに法のさすところなり
判云、左歌、故事おもへるうへに、たくみには見え侍り、右歌、事ざまはさりともみえ侍りなんものを、又さまでしらずともありぬべくや、左勝侍らん
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