実況! 六百番歌合「元日宴 一番」~俊成の宣言~

実況:さあついに六百番歌合の火蓋が切って落とされました。まずは左方よりぃぃ!!!
DJ:しっ! しずかにしてください。
実況:ん?
DJ:披講が始まります。「講師」が歌を詠みあげるのです。ちなみに隣に控えているのは「読師」です、和歌が書かれた紙を講師に渡す役目の人です。
実況:なるほど。

講師:
左 女房
「あらたまの年を雲居に迎ふとて今日諸人に御酒たまふなり」
右 信定
「ももしきや春を迎ふる杯に君が千歳の影ぞうつれる」

実況:歌い終わりましたね。
DJ:次に左右の方人、この歌合の場合は詠み人らが対戦相手が詠んだ歌に対して「難」を述べます。ようするにいちゃもんですね。それを受けたうえで、判者たる俊成が勝敗をつけていくという流れになります。
実況:ほー、なかなか白熱するルールになってるんですね。

右の方人:左の歌、特に難点なし
左の方人:宴会の心が足りぬようだが…

実況:右は不問としましたね、いいんですか?
DJ:はい、「指せる難無き」は往々にして見える言葉ですが、本来は望ましくないコメントでしょうね。歌合では歌を詠むことと同じくらい難癖をつけるのが大事なのです。これが出来ないということは負けを認めるのも同じなのです。
実況:ほほーう。お! ジジイもとい俊成がなにやら申しておりますぞ。

判者:左の歌「あらたまの」と歌い出す、正月にふさわしくめでたきかな! しかし、下句はいかん「御酒たまふなり」じゃと、つまらんの~
判者:右の歌、左方は宴会の心が足りんと申したな、ワシにはあるように見えるぞ。
判者:よって引き分けじゃ!

実況:おおーと、六百番歌合の初戦は引き分けに終わった~
DJ:歌合で引き分けは「持」といいます。

DJ:ところでこの「持」は大きな意味のある「持」ですよ。
実況:というと?
DJ:実は歌合で第一番歌は左方を勝たせるのが通例となっているのです。かの清輔の「袋草紙」にも左の一番歌は優遇すべしと明確に書かれているのです。
実況:なるほど、それでも左の一番を持にした…
DJ:そうです。しかも左一番の詠み人である女房は、この歌合の主催者「良経」ですよ。それを勝たせなかったというところに、判者である俊成の強烈なメッセージがあるのです。ようするにこの歌合はガチンコでいきますよ、と…
実況:俊成こえ~!! これはしょっぱなからドキドキがとまりません!

DJ:ふふ… ですよね。さあ、次行きましょう!

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(書き手・解説:和歌DJうっちー)

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