別れと旅立ちに添える歌


3月… それは別れと旅立ちの季節。人が旅立つとき、そこには必ずドラマが生まれます。そしてドラマあるところには歌もまたある、というのが平安時代です。

今回は古今和歌集の中から、「別れ」と「旅」の歌をご紹介しましょう。

この記事の音声配信「第23回 別れと旅立ちに添える歌」を
Youtubeで聴く
iTunes Podcastで聴く

まずは「離別」部から、
370「かへる山ありとはきけど春霞 立ち別れなば恋しかるべし」(紀利貞)
371「をしむから恋しきものを白雲の 立ちなむ後はなに心地せむ」(紀利貞)
375「唐衣たつ日はきかじ朝露の おきてしゆけば消ぬべきものを」(よみ人しらず)
386「秋霧のともに立ちいでて 別れなば晴れぬ思ひに恋ひや渡らむ」(平元規)

これらは別れの歌でありながら、悲しみの叙情よりも風流な叙景の方が強く感じられます。なぜだと思います? それはこれらの歌に、ある共通点があるからです。

その共通点とは… 「立つ」です。

旅立つの「たつ」に、霞や白雲が「立つ」を響かせているのです。単なる別れの気持ちなんて、決して詠まないのが平安歌人です。

次は「羇旅」部から、これらもある共通点で選んでみました、分かります?

410「唐衣きつつなれにしつましあれば はるはるきぬる旅をしそ思ふ」(在原業平)
411「名にしおはばいざ事とはむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと」(在原業平)
418「かりくらし七夕つめに宿からむ 天の河原に我はきにけり」(在原業平)

正解はすべて「在原業平」作です。業平は伊勢物語の主人公「昔男」だとされており、上の三首は伊勢物語にも収められています。色好みの昔男は恋を求めて、また恋から逃れるために旅するのでした。旅の歌人といえば「能因」や「西行」が思い起こされますが、もしかしたら業平はその先駆者かもしれませんね。

→関連記事「能因 ~元祖旅の歌人のノー、インドア宣言!~
→関連記事「西行 ~出家はつらいよ、フーテンの歌人~

ちなみに「唐衣…」と「都鳥」の歌は、伊勢物語でも最も知られたエピソード、第九段「東下り」で詠まれた、和歌好きなら暗唱必須の歌です。

→関連記事「在原業平 ~愛され続けるプレイボーイ~

さて、以下の羇旅歌にもある共通点があります。
何だか分かります?
365「立ちわかれいなばの山の峰におふる 松としきかば今かへりこむ」(在原行平)
406「天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも」(安倍仲麿)
407「わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ海人の釣り舟」(小野篁)
420「この旅は幣もとりあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに」(菅原道真)

正解は… お分かりですよね、これらすべて百人一首に採られた歌です。ちなみに百人一首の「離別」「羇旅」歌は、すべて古今和歌集からの選出です。
※上記4首プラス、源実朝の「世の中は…」も羇旅に入るとされています

→関連記事「百人一首はなぜつまらないか

最後に再び、「離別」歌をご紹介しましょう。
これらの共通点は… とにかくいい歌! です。

393「別れをば山のさくらにまかせてむ 止めむ止めじは花のまにまに」(幽仙法師)
止める止めないは花に任せて… カッコイイです。

401「限なく思ふ涙にそぼちぬる 袖は乾かし逢はむ日までに」(よみ人しらず)
泣き尽くした涙の袖は乾かしておきます。いつかまた今度、会う日までに…

402「かきくらしことはふらなむ春雨に 濡れ衣着せて君をとどめむ」(よみ人しらず)
本来「濡れ衣を着せる」とはこういう使い方をするんですね。

403「しひて行く人をとどめむ桜花 いづれを道と迷ふまで散ちれ」(よみ人しらず)
桜の花よ、あの人が道を迷うように舞い散れ!

今年の別れの寄せ書きは、ぜひ一筆和歌を添えてみましょう。
(書き手:和歌DJうっちー)


令和和歌所ではメーリングリストで歌の交流(セッション)を繰り広げています。現代の「和歌」の楽しさをぜひ味わってみてください。初心者の方のご参加も大歓迎です。