夕立ちの風にわかれてゆく雲に遅れてのぼる山の端の月(藤原良経)

風雅集に採られた良経の写生歌、例によって適役は不要だ。夕日と月が交換する、眩い瞬間を切り取ったフォトジェニックな一首である。新古今であれば「風に分かれる雲」や「遅れておぼる月」といった前景化されたモチーフの裏に必ず別の思想が投げ込まれていたが、玉葉風雅の純写生歌にはそれがない。確かに当時は新しい発明であったろうが、どうしても物足りなさが残る。特に日没前後の風景は「マジックアワー」「ブルーアワー」といって素人写真家でもまさに魔法的な芸術写真が撮れてしまう。これでは歌の審美もつけられぬというものだ。

(日めくりめく一首)

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