ML玉葉集 秋下(令和元年十月)

和歌所では、ML(メーリングリスト)で歌の交流をしています。花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠み交わしています。参加・退会は自由、どうぞお気軽にご参加ください。
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今月のピックアップ五首

「奥山は色づきするか鱗雲汝がたゆたへば心秋なり」

「茶摘み後の老葉も古葉もそのままに燻し煮出して京番茶」

「菊の香にうつらうつらとまどろめば七百余年の飯の炊けたり」

「君がきく花のかほりの溢れては我が盃の干る時もなしたれひと」

「振り向く人のありもせで入日沈むやラムボールのごと」

今月の詠歌一覧

なくて今あるを知るかな虫の音の絶えにし野辺に木枯らしぞ吹く
秋の音は夜ごと昔になりにけり露こそまされ弱る草むら
虫の音も憂き世のならひにやつすかな闇に消え入る秋の夕暮れ
きりぎりす兜の下を思へとてあはれなくなり更待ちの夜
眺むれば道迷ひけりうろこ雲流れてもまた流れても来る
奥山は色づきするか鱗雲汝がたゆたへば心秋なり
おほかぜの去りゆく方をながむれば疾くこと夢のごとき鯨雲
思ひきや深き海原ゆく君を美空をかけて仰ぎ見るとは
おおかぜ金(くがね)の浪の花や咲き畔の端にはしずく零れぬ
見てしがな疾く行かむぞと流れゆく雲の鯨が目指す彼方を
足音の驚くまでになりにけり田の面をつまむ雁の子供ら
稲株に足とられつゝ遊ぶ子も巨椋田の面にかゝる秋空
一かぶに一椀食へや笛太鼓巨椋田の面にお馬がとほる
茶摘み後の老葉も古葉もそのままに燻し煮出して京番茶
湯呑にも秋は見えけり花紅葉よりけに染まる番茶の出色
秋月に過客は引けり一文字霞むを追へば天高きを知る
誰ならむ天の高きで矢を放つ月秋風に首すくめたり
仰ぎ見る無邊の空に吹く風は弓張月の居るにまかせて
白線の消えゆくさきは温かく冬鳥招く風の指先
出でぬれば木曾の矢合わせ白鏑伏目に渡る十三夜かな
釣り船の跡こそみえね江戸川の色の深さも秋のことかな
江戸川の色ぞゆかしき秋の風そなたにわたるこゑばかりして
晴れやかにわが身も国の心地かな瞳とじれば風のこゑごゑ
まだなつのあせのなごりをゆふかぜにそとまかせてはしづけさをきく
ことのはをたてまつらましおほつちへいざまぼらふれおほやしまこそ
ふきまどふおきののわきやわたつみのふかきあをへとかへりたまはめ
荒ぶれの風に耐えぬる壁がもが雨に耐えぬる屋根もがな遠ほく南を眺がむれば猛けきに生ふる野分雲我ら今より心してこれに備えん凪の秋空
きたかたの地より放てる冬やじり初雁や飛ぶ秋の夕暮
いまこむと仰ぎ見ゆるは秋の空雁を渡せる風は吹きける
北風に浪の花咲き初雁はうつらうつらと羽を休めり
冬の色翼にかけて渡りくる初雁金の声ぞ悲しき
民草に慕われたばやと思ほばや出づるな屏風を風神雷神
六曲をいづると聴かば搦めてむ留めてはよしともに眺めむ
撥おきて盃にかへては風袋の吹くかひもなしけふはかぎりぢや
はつかりの羽かはしては白雲のからくれなゐにそまるころかな
あきづとぶ仙石原のゆふつかた神のおはする風のふくらむ
野分来てなゐもて地揺るぎ闇の中五色の糸や何処にあるらん
おとにきく八大龍王荒れまさりとけて寝ぬ夜のをち方の空
野分するこゑも激しき秋の夜のこゝろはをちにあくがれぞゆく
千筋凭る雲居もつひにときゆかば星影やどす空ぞまたれる
おほかぜの去りてはつねの晴空も水漬けばしのにうらみなるなむ
地に川に未だ居座る大颱風澄みし青空川水ならまし
己のみ思ふ心地罪深く何もせられで雲見上げたり
みあげれば閑けき街に雨がふるあだにやさしき雨ばかりふる
この時よ長くあれかし菊の花浮くさかづきに映る君見て
天つ人嘆く涙や鈍色の空から降りて我が頬つたう
菊の花笑顔ほころぶ秋もがな濁れる酒に息災願ふ
菊の香よいかで眠りに誘はなむ涙盃溢れこぼるる
菊の香にうつらうつらとまどろめば七百余年の飯の炊けたり
永かれと映す花影さがしつゝ時噛みしめる君の逆月
炊けぬとや飯炊けぬとやわれにたべ菊もかはらぬその飯盛を
君がきく花のかほりの溢れては我が盃の干る時もなし
菊の酒汲めども尽きぬ泉の酒の共に舞うなり猩々舞を
咲かうとも咲かれぬ花もあるものをなどて咲かぬと責めて恥ぢぬか
咲かうとも咲かれぬ花もあるものをなれこそめしい咲きてもみえぬわ
桜とて夏のひかりは苦し(かり)けり色も香りも折々の縁
たけなわの宴に月をも紅をさし川の畔の夜は更けにける
時過ぎて万に一つの老いの花咲くも咲かすも縁ならむや
冬ごろもつくろふわざの守歌や秋夜に響くきりぎりすの音
訪れを待ち泣き焦がるきりぎりす寂しさ増せる片袖の夜
白金もこがねも玉も飢うる時人の命を救ふ可きやは
秋の夜に守うたするかきりぎりす袖つくろへばこぞのにほへる
寂しさの増すかときけばきりぎりす結弦の袖を君にひかまし
冬ころもこぞ見しまゝの袖はなし虫くひてけり夜々となかれぬ
きりぎりす夢の終わりを告げるかな無常に響くノーサイドの笛
月を読み日を整えて備えける鳩現れて鉄砲を撃つ
秋深く三十一文字の言の葉を紅く染むるは恋ならむや
それをみて玉のはまべのまめをとこはとはこちやとくひてにげけり
かもめ見ゆナンパの船のありしかば曳きて行きなむキクヤのジャムダーツ
君きくやあと曳く甘味ジャムダーツショコラの夢とゝもに沈まむ
戀すてふ人の奥山いりてこそ秋ことの葉ゝもみぢするらむ
ことの葉の裏も表も紅に舞ひて描くは心の故郷
秋草の枯れゆく花の語るらく懐かしきもの頬をつたいて
たれひとり振り向く人のありもせで入日沈むやラムボールのごと
うら枯れの草葉に荒るる野の宮も時至りなば紅葉やするらん
かくありてそそうもなにもうたのたねためしになれも豆くらふてみよと
歳ふれば食らう数の多くして歌の種とて節会待たれよ
捧げ持つ剣(つるぎ)に応え天や湧き笑みを咲かせる雨は降りける
日継すと萬の神も甘露かなけふ九重の幸と降れかし
ふじのやま白き衣にかしこまる天つ日嗣に初はめでたし
はつと聞きけふぞはじめの日にあれば君がゝどでにはなむけせむよ
やすみしし我がおほきみのきこしめす瑞穂の国は令しく和らぐ風の靡きける間なきがごとその雨の時じくがごとその虹の高光りける黄櫨染御袍を召して高御座鎮まり座して天の下語らいにける幸いと語らいにける万世に争ひのなき和らぎの国
ひさかたの天雲かける虹の橋万世にかけて幸ひ願ふ
やすみししわかおおきみのたかてらすそのみやひたるたかみくらあめのきさしはなないろのせかいのひととたすさへてわたるちとせのさきのわをおもふはすえにとくとしるらむ
衣手に銀衣(しろかねころも)襲なりぬ居して待ちなむ君の訪れ
初霜のまだき降りぬる景色かなわが黒髪に鹿の子鳴くなり
見渡せば花も紅葉もなかりけり 日暮れじゃないよ秋の夕暮れ
衣手に白金寒き夜ときかば月の都に径はたへなむ
かさね見る月の都も凍るらむ衣手寒き白金の夜
大道りイチョウ色づきニューグランドの裏の床屋の秋の夕暮れ
色づいて二十歳過ぎたら美容院裏の床屋の秋の夕暮れ
見渡せど花も紅葉もなきものとみればほころぶ君の笑顔や
かきあげる髪に力もなかりけり五十路もせまる秋の夕暮れ
飲まんとて諭吉も稲造もなかりけり夏目数へる秋の夕暮れ
みわたせば吊革ゆれてあるばかり登り列車の秋の夕暮れ
秋果ててゆかしかりけれ朝霧の浮世をおほふ墨染めの袖
かきやればいそもこぼるるしろかみをあかねにそめよ秋の夕暮れ
茜さすびんづら紅き舞姫の眼差し映す秋の夕暮れ  

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