七十九番「秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ」(左京大夫顕輔)
崇徳院歌壇の代表格が、この左京大夫顕輔こと藤原顕輔です。彼の家は「六条藤家」といって、父顕季を祖とする歌道の家でした。
六条藤家といえば「万葉集」の歌学をはじめて意図的に和歌に取り入れた、当時としては斬新な詠みぶりで一世を風靡したことで知られます。その象徴が「人麻呂影供」で、歌の聖たる柿本人麻呂をまさに神格化しその肖像を掲げて歌を献じ、歌道の家の正当性を明らかにしようとしました。「独鈷鎌首」で有名な「六百番歌合せ」における六条藤家と御子左家との熾烈な争いは、確かに新旧歌の家としての争いではありましたが、ある面では「万葉集」VS「古今集」の代理戦争でもあったわけです。
さてその二代目顕輔は、六条藤家をもっとも盛り立てた大歌人。「久安百首」など崇徳院主催の歌合で活躍し、ついには院勅を受けて「詞花和歌集」の撰を担いました。とかく定家をはじめとする御子左家ファンからは、旧態依然とした悪役にされがちな六条歌人ですが、顕輔の歌、たとえばこの百人一首歌などはまことに素晴らしい。
「秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ」
清明な五感で捉えられた、秋の夜の美しい情景。和歌特有の重だるい感情などはいっさいなく、ただ一途に目の前の美しさを歌い上げた完全なる風景歌。平明でだれもが理屈なしに「美」を感じられる、万葉の歌風はこの顕輔によって最上の高みに達したのです。
わたしなどは後の京極派※は新古今歌風つまり御子左家の亜流ではなく、六条歌風の清明こそ原点であるように感じます。
※「空清く月さしのぼる山の端にとまりて消ゆる雲のひとむら」(永福門院)
(書き手:歌僧 内田圓学)
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