濡れつつぞしひて折りつる年の内に春はいくかもあらじと思へば(在原業平)

『濡れていますが、あえて折りました。春もあとわずかなので』。折ったのは藤の花、当然ながら送った相手は女であろう。ちなみに伊勢物語では第八十段にこの話がみえる。それは80字もない極小のエピソードであるが、情報が少ないぶんかえって妄想が膨らむ。「身を知る雨」をご存じだろうか? そうでなくても春の終わり、男(業平)は女をおもんばかって藤の花を送ったのだ。それはみすぼらしい家にある唯一の風雅であったかもしれない。それをずぶ濡れに濡れながら、あえて折ったのだ。初句の「濡れつつぞ」は同情を寄せる、男の涙でもあった。

(日めくりめく一首)

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