春の苑くれないにほふ桃の花した照る道にいで立つ乙女(大伴家持)

「桃の花」。衝撃的な言葉である。特に私のような勅撰集を新古今、古今と下り、万葉へ至った者にはショックが大きい。歴代の勅撰集において、桃なんてものはまず詠まれない。漢詩人はこれに惜しみない愛情を寄せたが、本朝歌人はその対象としなかったのだ。なぜか? わかるだろう、あまりにも露骨ではないか! 「桃」。その響き、色香、かたち、いずれもあまりに女性的すぎる。花にようやく心を託せた人間に、桃ではあまりに赤裸々だ。奥手な平安歌人にこの歌はどう映ったろう。桃の花が照り映える道に立つ乙女… 危険なエロスである。

(日めくりめく一首)

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