山本のをちの日陰は定かにて片へ涼しき夕立の雲(藤原為家)

『山の麓の遠くの日陰がくっきりと浮かびあがっている。その一方で、涼しい夕立の雲が見える』。詠み人は藤原為家、言わずと知れた御子左家を継いだ定家の三男、後妻阿仏尼が記した十六夜日記には「二度敕を受けて世々に聞えあげたるは、たぐひ猶有難くやありけむ」と称えられる。しかしどうだろう、歌道における父また子息の活躍に比べて、為家の印象ははるかに薄い。やはり歌がまずいのだろう、今日の歌でもそれが分かる。見どころであろう「片へ」の対比が取って付けたようだし、そこへ至る上句がたどたどしくて耳に障る。風雅集に採られており写生歌ではあるが、どうにも理知のいやらしさが臭って冷めてしまう。

(日めくりめく一首)

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