大江山かたぶく月の影さえて鳥羽田の面に落つる雁がね(慈円)

「雁に月」、歌川広重の浮世絵でも有名なこの取り合わせはいつ固定化されたのだろう、少なくとも八代集においては見つけるのに難儀する。
今日の歌は慈円、新古今集で見つけた一首だ。『大江山の尾根へ向かっ沈んでゆく月の光は冴えて、鳥羽の田んぼのうえに雁が降りてゆく』、月と雁がたんに取り合わされるだけでなく、いわゆる「落雁」がこの歌の趣向である。私も含め現代人は悲しくも雁と縁遠くなってしまい、この落雁を素直にイメージすることが出来ない。しかし広重の浮世絵も、また芭蕉の発句※も、遠路を経てなお悲壮の雁に心を寄せて生まれたものだ。そういえば和菓子の定番にもこの名があったなぁ。

※「病雁の夜寒に落ちて旅寝哉」(芭蕉)

(日めくりめく一首)

和歌の型(基礎)を学び、詠んでみよう!

代表的な古典作品に学び、一人ひとりが伝統的「和歌」を詠めるようになることを目標とした「歌塾」開催中!

季刊誌「和歌文芸」
令和六年秋号(Amazonにて販売中)