みなさまこんにちは、和歌所の和歌DJうっちーです。
毎回和歌の偉人をお招きするこのコーナー、三回目は…
だれだこの汚い爺さんは!
ほっほっほ、お前さんは人を見かけで判断するのかい?(以下、翁)
い、いえそういう訳ではないんですけど…(以下、DJ)
(翁):ではここで会ったのも何かの縁じゃ、なんでも聞いてみい。
(DJ):って、あんた誰ってのが最初の疑問なんだけど、まあいいわかりました。
(DJ):ではいきなり本質的なことを聞いちゃますがね、「良い歌」っていうのはどういう歌なんでしょうか?
(翁):ほーほっほ、なんだそんな簡単なことかい。
(DJ):簡単!? いやすっごく奥深い問題ですよこれは、私なんか良い歌の基準があっちこっちいってどうにも定まんないんですから。
(翁):そりゃお前さんが未熟者って、ただそれだけのことじゃ。
(DJ):ムカー、はいはいそうですよ。じゃぁ教えてくださいよ、その簡単な「良い歌」ってのを!
(翁):ふむ、よかろう。良い歌とはな…
(DJ):(ゴクリ)?
(翁):ズバリ、「道」に達した歌じゃ!
(DJ):ひょえ~
(DJ):おい爺さま、あんた素人だね。道なんてそれらしい言葉でごまかそうたってそうはいきませんよ。
(翁):なんと、馬鹿でもわかるように言ったつもりじゃが、伝わらんかったか?
(DJ):ムキ―!
(翁):では順を追って話をしようか。おい和歌DJ、お前さんが考える「道」とはなんぞや?
(DJ):「道」ですか、んー、武道や芸事やなんかで一つのことをやり続けて到達する境地ですかね。
(翁):喝(かああっつ)!!
(DJ):うわっ、びっくりしたぁ、なに!?
(翁):いかにもせせこましい日本人の考えそうなことじゃの。いいか、道とは絶えず生滅を繰り返す「一切万物の流転の相」をいうんじゃ!
(DJ):あ、へーそうなんですか、なんか壮大ですね。で、その道は“だれでも”到達できるもんなですか?
(翁):喝(かああっつ)!!!
(DJ):ま、またぁ、今度はなんすか?
(翁):聞くがの、お前さんが言う「だれ」とはなんじゃ?
(DJ):ええっ!?
(翁):自分とはなんじゃ? 他人とはなんじゃ?
(DJ):えええっ!!!
(翁):善とは? 悪とは?
(DJ):わかりませ~ん!! 爺さまそれは難しい質問ですよ、人類が連綿と挑んできた哲学の問題ですよ。
(翁):いんや、まったく難しくない。難しくしているのはお前自身じゃ、アレとコレを分けて考える差別の心がコトを難しくしとるんじゃ。
(翁):「万物斉同」!! この世にはアレもコレもなくすべては「一つ」である。
(DJ):ということは自己と他者も、善と悪も、そして生と死さえも違いがないということですか!?
(翁):ほう、なかなか筋がいい。そうじゃ、一切万物の流転という真理において、この世はすべてひとつであるのじゃ。
(DJ):なるほど、なんかわかったような気がするようなしないような…
(翁):い~や、まだまだわかっておらん。よいか、しょせん頭の中でこねくり回して考えたところに道はないのじゃ。
(翁):しかも人間は言葉を使って考える、言葉とは物と物を差別するための道具じゃ、言葉を使って考えるかぎり道に達することはできん。
(DJ):ええ、それじゃどうやって道を目指せっていうんですか!?
(翁):「無為自然」!! 人為をやめて自然のままにゆだねるのじゃ、さすれば道はおのずとあらわれる。
(翁):花は花として開き、鳥は鳥として鳴く、花鳥風月は生まれたそのままに逆らわずあるではないか。人間にこれが出来ぬのなら、偉大な自然にひたすら心を重ねてみるしかなかろう。自力で道に到達できるなんぞ、人間のおごりにすぎん。
(DJ):なるほど、他力本願というわけですね。
(DJ):しかし爺さま、愚かな人間はその自然を破壊してしまったのです。少なくとも私が住む都会では心を重ねられるようなゆたかな自然はありません。
(翁):だからあるんじゃろう、和歌が。
(DJ):和歌が?
(翁):そうじゃ、和歌とは古人が千変万化する自然に心身を一心に重ねて詠んだものじゃ。人麻呂、西行、芭蕉、例えば彼らの歌に心から耳を傾けよ、おのずから無為自然の境地が見えてくるじゃろうて。
(DJ):ようやく理解できました、そして道に達する歌こそが良い歌であることもわかりました。
(翁):よいか、道は恣意に求めないことだ。身近な自然そして和歌に心を浸透させて一体となるのじゃ。
(翁):わしが夢で蝶になったのか、蝶が夢でわしになったのか、わからんほどにな(「不知、周之夢爲胡蝶與、胡蝶之夢爲周與」)。
(DJ):も、もしやあなたは荘子さまでは!?
(翁):ほっほっほ、想像にまかせる。
(翁):自分が蝶か、蝶が自分か、なんてことは頭で考えておっては理解できまい。しかしな、万物斉同! 無常なる世の理が揺らぐことはないぞ。
(DJ):は、はい!
(翁):いつかはお前さんも無為自然の歌が残せるとよいな。
(DJ):ありがとうございます! 荘子さま、あなたを私の心の師匠と呼ばせてください!
(翁):ほーほっほ、好きにせい。
(DJ):再見!
(書き手:和歌DJうっちー)
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