年賀状におすすめの和歌 ※お手本あり!

師でなくとも忙しいのが「師走」です。忘年会にクリスマスなどのイベント、大掃除や帰省の準備などやること盛りだくさん…

そんな時期に年賀状です。

この記事の音声配信「第12回 年賀状にオススメの和歌」を
Youtubeで聴く
iTunes Podcastで聴く

この日本特有のグリーティングカードが国民一般に広まったのは明治になってから。1899年に郵便物が年末に集中することの対策として年賀郵便の特別取扱が始まり、1949年にはお年玉付郵便はがきが発行されるようになりました。

以後、年賀状の発行枚数は爆発的に増加、ピークとなる2003年には44億枚の発行枚数となりました。ただ最近は減少傾向で、2022年の発行枚数は18億枚だということですが、これでも単純計算して一人当たり20枚弱の年賀状を送っていることになります。

「2022(令和4)年用年賀葉書などの発行および販売」(日本郵便)

年賀状を何十枚も手書きしていた時代の苦労はいかばかりかと察するところです。いや、むしろ昔は年末のイベントに追われることもなく、家族みんなでコタツに入ってワイワイと書いていたのかもしれませんけどね。

さて、多忙な現代人を支えてくれるのがパソコンやスマホです。住所録さえ作ってしまえば、あとはお仕着せのテンプレートを使って印刷すれば完成です。あ~、なんて楽なんだ。ありがとう、技術革新!
しかし。気持ちよく年始を迎え、友人からの年賀状を眺めると、、 なんだか寂しい

「年賀状 もらったぶんも テンプレート」
せめて一筆ほしいと、他人に対しては望んでしまうものです。

今年はもらう立場になって、一筆書いてみましょう。
何も書くことがない、とお困りの方、ありますよ、そこに和歌が! というわけで、年賀状におすすめの和歌を「古今和歌集」から選んでみました。

まず一番のオススメがこれ、「大歌所御歌」にある一首です。
1069「あたらしき 年の初めに かくしこそ 千歳をかねて たのしきをつめ」
Happy New Year! 千年も先取りして楽しい(楽し木)を積んじゃおうぜ!

【この歌の年賀状のお手本】

お手本(PDF)をダウンロードする

ところでこの類似歌が「万葉集」の最終に採られています。今回は古今集よりの抜粋ですから深堀りしませんが、参考までにご紹介しましょう。
万4516「あらたしき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事」(大伴家持)

→「万葉集の代表歌、歌風、選者そして歴史をざっと知る!

次いで古今集の「賀歌」から。賀歌の多くは長寿を祝う歌ですが、このおめでたさは年賀状にもピッタリです。
352「春くれば 宿にまづ咲く 梅花 君が千歳の かざしとぞ見る」(紀貫之)
356「よろづ世を 松にぞ君を 祝ひつる 千歳のかげに すまむと思へば」(素性法師)
357「春日野に 若菜つみつつ よろづ世を 祝ふ心は 神ぞしるらむ」(素性法師)

さらに「春歌」から。新春の美しい情景が広がります。
2「袖ひぢて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ」(紀貫之)
4「雪の内に 春はきにけり うぐひすの こほれる涙 今やとくらむ」(よみ人しらず)
6「春たてば 花とや見らむ 白雪の かかれる枝に うぐひすそなく」(素性法師)
13「花の香を 風のたよりに たくへてぞ うぐひす誘ふ しるべにはやる」(紀友則)
21「君がため 春の野にいでて 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ」(光孝院)
24「ときはなる 松のみどりも 春くれば 今ひとしほの 色まさりけり」(源宗于)

もし相手が和歌に精通していたら、こんな和歌はいかがしましょう。
456「浪のおとの 今朝からことに きこゆるは 春のしらべや あらたまるらむ」(安倍清行)
これは「物名歌」で、「からこと」に「唐琴」が詠み込まれています。

お互いが老骨に鞭打つ間柄だったら、こんな和歌はどうでしょう。
8「春の日の 光にあたる 我なれど かしらの雪と なるぞわびしき」(文屋康秀)
28「ももちどり さへづる春は 物ごとに あらたまれども 我ぞふり行く」(よみ人しらず)
経年の皮肉に笑顔も混じります。

ラブレターは気恥ずかしいという貴方、この機会に、年賀に恋心を込めてみてはいかがでしょう。
542「春たてば きゆる氷の のこりなく 君が心は 我にとけなむ」(よみ人しらず)
596「年をへて きえぬ思ひは ありながら 夜の袂は なほこほりけり」(紀友則)
605「手もふれで 月日へにける しらま弓 おきふし夜は いこそ寝られね」(紀貫之)
684「春霞 たなびく山の さくら花 見れどもあかぬ 君にもあるかな」(紀友則)
747「月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは もとの身にして」(在原業平)

たったみそひともじ(三十一文字)です。
一筆したためてみましょう(と、自分に言い聞かせてみる)

(書き手:歌僧 内田圓学)

和歌の型(基礎)を学び、詠んでみよう!

代表的な古典作品に学び、一人ひとりが伝統的「和歌」を詠めるようになることを目標とした「歌塾」開催中!

季刊誌「和歌文芸」
令和六年夏号(Amazonにて販売中)