実況! 六百番歌合「枯野 十三番」~源氏見ざる歌詠みは遺恨の事なり~

時は建久五年(1194年)、左大将良経主催による歴史歴な歌合せが行われた。世にいう「六百番歌合」である。これはその模様を和歌DJうっちーの解説のもと、面白おかしく実況しようという試みである。

実況:六百番歌合せは知らなくても、「源氏見ざる歌詠みは遺恨の事なり」を聞いたことがある人は案外多いんじゃないでしょうか。この名台詞はどの番で言われたものですか?
DJ:「枯野」の題です、先ほどまで春の初めごろの歌を鑑賞していたのですが、季節は一気に冬になっちゃいましたね。
実況:ずいぶん端折っちゃったわけですか… まあ気にせずいきましょう。

講師:
左 女房
「見し秋を何に残さむ草の原ひとつに変はる野辺の景色に」

右 隆信
「霜枯の野辺のあはれを見ぬ人や秋の色には心とめけむ」

右の方人:「草の原」なんて聞いたことがないが、、

左の方人:右の歌は古びて聞こえるぞ。

判者:左の歌「何に残さむ草の原」という、誠に優美な風情じゃ。にも関わらず、おい右の方人連中! 「草の原」に不満があるだと!? ふざけんじゃねぇ!! かの紫式部は歌は下手くそかもしれんが物語を書かせたら天下一品の人。その中でも「花の宴」はことさら優美な巻であることを知らんのか。源氏物語を見たことがない歌詠みなんてのは残念の極み、心底恥ずべきことじゃ!!

実況:うぉぉぉ、出ました~! さすが、歴史に残る名言だけあって迫力がありますね。
DJ:詠み人の隆信は御子左の人間、また評定で怒られた右方はほぼチーム御子左です。つまり俊成は身内の失言に対して大激怒したのですね。

DJ:しかし一方で、六条藤家の人たちはあっけにとられていたかもしれませんよ。俊成翁はなんでそこまで怒っているのか? と。
実況:それはだって源氏物語の、さらに朧月夜と出会う「花の宴」という有名な場面で詠まれたんですよねぇ、「草の原※」は…

※「憂き身世にやがて消えなば尋ねても草の原をば問はじとや思ふ」(朧月夜)

DJ:確かにそうです。しかしこれまでの番を鑑賞してきたように、歌の評価において故事漢籍の裏付けは強く意識されていましたが、ここに宮廷の恋物語などはほとんど意識されなかったと思います。実のところ源氏物語などの宮廷文学を下敷きとした歌に、明確な理想を抱いたのは俊成が初めてであったのです。
実況:ほえ~、つまり俊成という人間は、俊成のこのセリフは、和歌において極めて衝撃的だったわけですね。
DJ:そうです! 前回では歌に「絵画」を認め、そして今回歌に「物語」を描いたのは俊成であった。つまり新古今和歌集という奇跡の芸術の立役者は定家、良経、後鳥羽院ではなく一世代前の俊成翁であったということなのです。
実況:なるほど~、俊成はこの時八十一歳でしたよね。すげぇじいさんだなぁ。。

DJ:ということで、ここで六百番歌合せの鑑賞は一区切りとしましょう。今回は四季題を鑑賞しましたが、恋題にはもっと面白い番がありますよ。
実況:うおー、和歌マニアにはたまりませんね!

(おわり)

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(書き手・解説:和歌DJうっちー)


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