和泉式部 ~恋にまっすぐな平安ジェンヌ~

和泉式部は女房三十六歌仙にも選ばれた平安時代中期に活躍した歌人です。
紫式部はじめ赤染衛門、伊勢大輔らと共に時の中宮、藤原彰子に仕え、華やかりし女流文化勃興の一役を担いました。

ご承知のとおり和泉式部は多情で知られ、藤原道長には「浮かれ女」などと言われていたそうです。時の権力者にこう言わしめるとは、目も当てられませんね。
また同僚である紫式部には、その日記で

「和泉式部といふ人こそ、面白う書き交しける。されど、和泉はけしからぬ方こそあれ…」
紫式部日記

「けしからぬ方」、ですよ、いろんなイメージが湧きますが、つまりは相当はっちゃけてたんでしょうね。

ただ彼女が綴ったとされる「和泉式部日記」をみると、少し違う印象を受けます。今回は「和泉式部日記」の和歌から、本当の式部像に迫ってみましょう。
※「和泉式部日記」は藤原俊成が書いたという説もあります。

和泉式部の十首(「和泉式部日記」より)

和泉式部は夫である橘道貞が単身赴任中に、冷泉天皇の皇子である「為尊親王」と激しい恋に落ちます。しかし為尊親王は若くして亡くなってしまうのでした。
その悲しみのなか喪に服して一年がたとうという頃、亡き為尊様に仕え、今はその弟君である「敦道親王」に仕える小舎人童に出会う場面から「和泉式部日記」は始まります。

(一)「かをる香に よそふるよりは ほととぎす 聞かばや同じ 声やしたると」(和泉式部)
為尊親王の弟君である敦道親王に対して、あなたの声はお兄様と同じかしら? と、いきなり誘っているようですが、ここは単純にほととぎすにお兄様である為尊親王の声を重ねているのでしょう。

(二)「夜とともに 濡るとは袖を 思ふ身も のどかに夢を 見る宵ぞなき」(和泉式部)
お兄様のことを思い出せば、のんびり夢を見ることなんてあるわけない! と、強烈に弟君を突き放します。

(三)「世の常の ことともさらに 思ほえず はじめてものを 思ふあしたは」(和泉式部)
ん? どうやら和泉式部、弟君と早速一夜を共にした上に、初めてこんなにドキドキしちゃった、と言わんばかりです。これはやはり、けしからん! でも恋しちゃったんですもの、しょうがないです。しかしここから先、和泉式部は以外にも慎重です。

(四)「よもすがら なにごとをかは 思ひつる 窓打つ雨の 音を聞きつつ」(和泉式部)
一晩中あなたを想っていたんですよって、いじらしいですね。

(五)「ひと夜見し 月ぞと思へば ながむれど 心もゆかず 目は空にして」(和泉式部)
あの晩あなたと一緒に見た月だと思うと、心は上の空ですって、最高に沁みる歌です。

(六)「こころみに おのが心も こころみむ いざ都へと 来て誘ひみよ」(和泉式部)
和泉式部は都から離れた近江の石山寺にいました。にもかかわず、こっちへ来て誘ってみてよ! と挑発的な歌を親王へ送ったのです。平安女性といえばひたすら忍び待つイメージですが、それをぶっ壊す歌です。

(七)「惜しまるる 涙に影は とまらなむ 心も知らず 秋は行くとも」(和泉式部)
#惜しんで止まらない涙にあなたの面影をとどめようって、なんとも愛おしい歌だなぁ。

(八)「時雨かも なにに濡れたる 袂ぞと 定めかねてぞ 我もながむる」(和泉式部)
時雨でしょうか? 私の涙でしょうか? 分からないけど、ずっとあなたを想い耽っています。

(九)「今の間に 君来まさなむ 恋しとて 名もあるものを われ行かむやは」(和泉式部)
あなたから逢いに来てよ、噂が広まっちゃうじゃない! そうでよすね、「浮かれ女」なんて言われちゃいますもんね。

(十)「いとまなみ 君来まさずは われ行かむ ふみつくるらむ 道を知らばや」(和泉式部)
ええーい! あなたがこなかったら私から行くわよ! 和泉式部のこの強さが好きです。

そして恋は進み、最後は敦道親王に引き取られるという、平安文学に珍しくハッピーエンドで終わります。

しかし人生は残酷です。日記には書かれていませんが、敦道親王もまたほどなく(4年後)亡くなってしまうのでした。中宮彰子の女房になるのは、この後のことです。

「黒髪の 乱れもしらず うちふせば まづかきやりし 人ぞ恋しき」(和泉式部)
黒髪をそっと撫でてくれる人がいれば、それで幸せ。これが式部の純粋な気持ちなのでしょう。

黒髪の歌は、後の多くの歌人に影響を与えました。
「長からむ 心も知らず 黒髪の みだれて今朝は 物をこそ思へ」(待賢門院堀河)
「かきやりし その黒髪の すぢごとに うち臥すほどは 面影ぞたつ」(藤原定家)
「くろ髪の 千すぢの髪の みだれ髪 おもひ乱れかつ おもひ乱るる」(与謝野晶子)

和歌にあっては少々異端ともいえる和泉式部。「浮かれ女」などと揶揄されますが、一つひとつの恋を自分にまっすぐに謳歌したカッコイイ女性だったのです。
→関連記事「御簾裏の恋愛事情。和泉式部日記と蜻蛉日記に見る、平安女性の恋歌テクニック

(書き手:歌僧 内田圓学)

→一覧「一人十首の歌人列伝

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