今回は「序詞」を知りましょう。
「序詞」は前回紹介した「枕詞」と同じように、ある語を修飾、別の言い方をすると歌のイメージを膨らませる役割を持っています。ただ「枕詞」と違って口語訳します。また常套句ではないため、字数や表現に制限がありません。
歌の例をあげましょう。
「(あしひきの山鳥の尾のしだり尾の)ながながし夜を一人かも寝む」(柿本人麻呂)
序詞は「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の」の部分で、「ながながし」を装飾しています。唐突に山鳥の尾っぽを出して、「長い」ということを強調しています。でもなぜ「山鳥の尾」なのでしょう? たんに長いということであれば「我が履く裾からしだるふんどしの」でもよさそうですが??
実は山鳥、「昼はオスとメスが一緒に過ごすけれど、夜は別れて寝る」という「歌ことば」の設定があるのです。
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「山鳥」を登場させて「孤独な夜」の連想をより強める効果を狙ったのですね。さすが歌の聖、人麻呂!
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さて、「序詞」は字数や表現に制限がないとはいえ、装飾する語との繋がり方に一定のルールがあります。
その1が「比喩で繋がる」です。上で挙げた「あしひきのやまどりの尾のしだり尾の」がそれですね。他にもこのような歌ががあります。
「(みちのくのしのぶもぢずり)誰ゆへにみだれそめにし我ならなくに」(河原左大臣)
「(由良のとを渡る舟人かぢをたえ)行へもしらぬ恋のみちかな」(曽禰好忠)
その2は「同音反復で繋がる」です。
「かくとだに(えやはいぶきのさしも草)さしも知らじなもゆる思ひを」(藤原実方)
「(浅茅生の小野の篠原)忍ぶれどあまりてなどか人の恋しき」(参議等)
「さしも草」からの「さしもしらじな」、「しのはら」からの「しのぶれど」と同じ音を続けることでリズミカルに繋がります。
その3は「直後が掛詞で繋がる」です。
「(難波江の葦の)かりねのひとよゆへ身をつくしてや恋わたるべき」(皇嘉門院別当)
「(唐衣ひも)ゆふくれになる時は返す返すぞ人は恋しき」(よみ人しらず)
「かりね」が「刈り根」と「仮寝」、「ゆふ」が「結う」と「夕」に掛けられています。
序詞が特に重宝されるのが恋歌です。平安貴族にとって雄々しくストレートに「好きです」なんて言うことは“ダサい男”のやることでした。スマートなモテ男は、熱い恋心を優美に甘美に花鳥風月に例え歌に託すのです。となれば当然、その歌は序詞(比喩)が活躍するということですね。
例えば…
478「(春日野の雪間を分けて生ひいてくる草の)はつかに見えしきみはも」(壬生忠峯)
冬の寒さが和らぎはじめ、雪に覆われた春日野にも暖かな日差しが降り注ぐ。ふと足元を見る。すると若草が僅かに顔を出しているではないか。これは春が、いや恋が始まる予感。
そんな感じであなたをチラ見しました!!
さらにはこんな歌も
583「(秋の野に乱れて咲ける花の色の)ちくさに物を思ふころかな」(紀貫之)
萩、桔梗、藤袴、女郎花… 秋の野は色とりどりに咲き乱れている。
そんな感じで、あなたへの思いで心がいっぱい乱れまくってます!!
序詞の出来いかんで、恋歌の良し悪しが決まることがお分かりいただけたでしょう。
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なんとも耽美な世界。男女がまともに対面出来ない時代には、このくどい言い回し、もといこの知性とセンスに溢れる口説き文句が必須だったのです。これは真似をしろと言われても、非常に難易度が高いですね。負けるな現代男子!
(書き手:歌僧 内田圓学)
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