「立春(りっしゅん)」~美しい日本語の四季~

「袖ひぢてむすびし水のこほれるを 春立つ今日の風やとくらむ」(紀貫之)

歌中の「春立つ」とは二十四節季の第一、「立春」を指します。旧暦(太陰太陽暦)ではこの日を年の始めとしていました。今でもお正月を「新春」というのはこのためです。

実は二十四節季のうち、和歌で詠まれるのは「立春」と「立秋」くらいです。
春と秋、この二つは歌人たちにとって特別な季節でした。それが端的に分かるのが古今和歌集の四季ごとの収歌数です。夏が三十四首、冬が二十九首に対し、春は百三十四首、秋はなんと百四十五首も収められているのですから。

冒頭の歌は立春の日の風を詠んだもの。夏、手を合わせ掬った水に袖を濡らし、冬、それが冷たく凍ったのを、立春の今日の風が溶かすのだろうか? 一首で四季の巡りを歌にしています。

暦の上では春になったとはいえ、本当はまだまだ風は冷たいはず。でも立春という言葉を聞くだけで、もう心は暖かくなってしまうのです。

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(書き手:歌僧 内田圓学)

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