「妄想女子の恋歌日記」~恋しのぶ5月の巻~

●5月1日
あ~もうめんどくさい
あたしと彼はめっちゃラブラブだっていうのに、あの取り巻きどもよ
「これ以上、彼に近づくな!」ってこれって脅しじゃない?

そんなもんに私たちが屈するわけないんだけどさ
なんか面倒になるもヤだから
やっぱ内緒で付き合おうってことにしたの
だからさ、私は彼のこと、人にいっさい話さないよ

でもね。思い出しちゃうときは、常盤の山の岩つつじじゃないけど
言わないから、よけいに恋しいんだよね

495「思ひいづる ときはの山の いはつつじ いはねはこそあれ 恋しきものを」(よみ人しらず)

●5月23日
もう夏だってのに
私たちの内緒の恋はくすぶったまま

いつまで私はひっそりと想ってなきゃならないのよ!
これじゃ夏の蚊遣火(かやりび)じゃない

彼がモテるってのは、大変よ
あ、分かった? ちょっと自慢はいったの(笑

500「夏なれば 宿にふすぶる 蚊遣火の いつまてわが身 下燃もえをせむ」(よみ人しらず)

●5月29日
内緒にするって決めてから
なんだがよけいに苦しくなった気がする…

だってさ、学校でたまにすれ違ったりするのに
まるっきし無視しなきゃいけないんだよ
彼は平気なのかな?

私は苦しくて、恥ずかしくて
末摘花みたいに
真っ赤になって顔に出てると思うんだけどね

496「人しれず 思へば苦し 紅の すゑつむ花の 色に出でなむ」(よみ人しらず)

つづく…
(書き手:歌僧 内田圓学)

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