ハロウィンにクリスマスと、西洋イベントに押され気味の日本の伝統行事ですが、こと「七夕」だけは、奈良時代から今に至るまで根強い人気があります。
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七夕に関する歌は最古の歌集「万葉集」においてすでにみられ、古今、新古今そして現代へと連綿と歌い継がれてきました。
面白いのは、時代が下るにつれて七夕の歌が変化、いや進化しているのです。そこには七夕の捉え方はもちろん、和歌に対する美意識の変化が見て取れます。
今回は「万葉集」「古今和歌集」「新古今和歌集」の七夕の歌を鑑賞して、歌と美意識の変化を楽しんでみましょう。
万葉集
万葉集は謎の多く残る歌集です。編纂の経緯など詳しいことはほとんど分かっていません。
集歌数はおよそ四千五百首! 時代は仁徳天皇(の皇后)から大伴家持まで、詠み人は貴族から乞食まで。まさに万(よろず)の歌が収められた歌集なのです。
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その歌風はよく「素朴」の一言で語られたりしますが、万葉集の後期には繊細優美な歌も沢山あります。ただそれはいわゆる「和風」ではなく、中国文化の影響・憧れを強く感じさせるものです。
万2000「天の川安の渡りに舟浮けて秋立つ待つと妹に告げこそ」
船を浮かべて君を待っていると、彼女(織女)に伝えておくれ
万2007「ひさかたの天つしるしと水無し川隔てて置きし神代し恨めし」
水のない天の川で私たちを隔てるという神代の決まりが恨めしい
万2016「ま日(け)長く恋ふる心ゆ秋風に妹が音聞こゆ紐解き行かな」
長く待ちわびたが、秋風に乗って織女の声が聞こえたぜ~。さあ、腰紐をほどいて行くぜ!
万2022「相見らく飽き足らねどもいなのめの明けさりにけり舟出せむ妻」
もっと長く逢っていたいけれども夜が明けてしまった。もう帰らねばならん(涙…
このように、中国伝来の七夕伝説のストーリーを忠実に牽牛、織女になりきって詠んだ歌が多いです。そして我(男)は妹(女)にまっすぐな恋心を表しています。
注目は「紐解き行かな」でしょうか。紐を解くつまり、服を脱いで素っ裸で行っちゃるぜ! ってな感じでしょうか。このような露骨な表現は、古今和歌集などには決してみられません。
ちなみに万葉集の第十巻秋雑歌は全二百四十二首あり、そのなんと九十八首が七夕の歌です。七夕伝説への関心が異様に高かったことが伺えます。
古今和歌集
醍醐天皇によって905年に編纂されました。
このサイトで色々説明していますので、よろしければ以下をご覧ください。
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173「秋風の吹きにし日より久方の天の河原にたたぬ日はなし」(よみ人しらず)
立秋の日から、天の川に風が立たない日はない
177「天の川浅瀬しら浪たどりつつ渡りはてねばあけぞしにける」(紀友則)
天の川の浅瀬を知らなかったので、川を渡る前に夜が明けちゃったよ~
181「今宵こむ人にはあはじ七夕のひさしきほどに待ちもこそすれ」(素性法師)
今夜来る人には逢わない、だって織女のように長く待つようになるのはやだからね
このように古今和歌集の時代になると七夕伝説は消化しきっていて、素直に詠むというより滑稽かつ機知(ウィット)に富んだ歌が主流になります。つまり「技巧的」であり「理知的」であるのです。
173の「秋風」では半ば強引に「天の川」が歌われていますが、これは七夕の話より古今和歌集のルール(四季の配列の妙技)を優先した結果です。
※念のため断っておきますが和歌で七夕は秋の景物です。ですから「秋風」といったものと合せて詠まれるのです。旧暦と新暦の違いがもたらす違和感の最たるものが、この七夕という風物詩かもしれませんね。
ちなみに古今和歌集になると、秋上八十首のうち七夕の歌は僅かに十首見えるのみです。すでに中国文化への憧れは薄れていたのでしょう。
新古今和歌集
新古今和歌集は後鳥羽院によって13世紀初頭に編纂されました。
時代は鎌倉時代ですが、平安文化が最後の大輪を咲かせた時代です。
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新316「袖ひぢて我が手にむすぶ水のおもに天つ星合の空をみるかな」(藤原長能)
私が手ですくった水に、天の二つの星が映るよ
新321「眺がむれば衣手涼しひさかたの天の河原の秋の夕暮れ」(式子内親王)
眺めていると服の袖が涼しい、天の川の秋の夕暮れよ
新327「七夕は今や分かるる天の川は川霧たちて千鳥なくなり」(紀貫之)
七夕の星は今別れるのだろうか? 天の川に霧が立って千鳥が鳴いている
さすが新古今! 余情に富んだ美しい歌が揃っています。
そこに牽牛や織女の姿は全く見えませんが、天の川、七夕という言葉から想起するイメージを背景に、現実を超越した幻想的な情景を描いています。新古今和歌集の歌風が「絵画的」といわれるゆえんです。
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ちなみに新327の作者である紀貫之はもちろん古今和歌集時代の歌人ですが、新古今和歌集に採られる際には、新古今風の歌風が採られています。
いかがでしょう。
数首だけでも三大集のスタイルが全く違うことが分かり頂けたと思います。ただこれはあくまでも一つの傾向に過ぎません。それぞれの歌集がまだまだ色んな魅力を持っています。
さて、時は今! 現代に生きるあなただったら、どんな七夕を歌いますか? 想いをめぐらせて、今宵の天の川を眺めてみましょう。って言ってみたものの、新暦七月七日は梅雨のど真ん中で、たいていぶ厚い雨雲が天の川を隠してるんですよね~ ああ、もどかしい!
ということで、七夕はやはり旧暦七月七日を楽しみましょう。
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(書き手:歌僧 内田圓学)
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