空蝉の身をかへてける木のもとになほ人がらの懐かしきかな(光源氏)

空蝉(蝉の抜け殻)というモチーフは好んで恋の場面に用いられた。昨日のケースでは魂が抜け出た無気力状態に譬えられていたが、今日は身代わりのまさに抜け殻として使われている。ご存じであろう、源氏物語の第三帖空蝉だ。世に言う「雨夜の品定め」によって、ついに発情期を迎えた光源氏。手始めに中流の女に手を掛ける、しかし女は靡かない! 強引に夜這を仕掛けるが、女は薄衣を残して逃げていった。歌では「ひとがら(人柄)」に「殻」を掛け、また「木のもと」は「蝉」の縁語を詠む。さすが稀代の貴公子らしく才知が働くが、恋の初戦は惨敗。また会いたいなぁと未練を残しつつ、女の匂いが染み込んだ衣をクンクン嗅いで自分を慰める。光源氏という伝説のプレイボーイは実のところ相当にカッコ悪い。

(日めくりめく一首)

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